刑事訴訟法

第3章 公判

第1節 公判準備及び公判手続


第二百七十一条(起訴状謄本の送達、不送達と公訴提起の失効)
裁判所は、公訴の提起があったときは、遅滞なく起訴状の謄本を被告人に送達しなければならない。
. 公訴の提起があった日から二箇月以内に起訴状の謄本が送達されないときは、公訴の提起は、さかのぼってその効力を失う。

第二百七十二条(弁護人選任権等の告知)
裁判所は、公訴の提起があったときは、遅滞なく被告人に対し、弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を知らせなければならない。但し、被告人に弁護人があるときは、この限りでない。
. 裁判所は、この法律により弁護人を要する場合を除いて、前項の規定により弁護人の選任を請求することができる旨を知らせるに当たっては、弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(''第三十六条の三第一項(私選弁護人選任申出の前置)の規定により第三十一条の二第一項(弁護人選任の申出)の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。

第二百七十三条(公判期日の指定、召喚、通知)
裁判長は、公判期日を定めなければならない。
. 公判期日には、被告人を召喚しなければならない。
. 公判期日は、これを検察官、弁護人及び補佐人に通知しなければならない。

第二百七十四条(召喚状送達の擬制)
裁判所の構内にいる被告人に対し公判期日を通知したときは、召喚状の送達があった場合と同一の効力を有する。

第二百七十五条(期日の猶予期間)
第一回の公判期日と被告人に対する召喚状の送達との間には、裁判所の規則で定める猶予期間を置かなければならない。

第二百七十六条(公判期日の変更)
裁判所は、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、公判期日を変更することができる。
. 公判期日を変更するには、裁判所の規則の定めるところにより、あらかじめ、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならない。但し、急速を要する場合は、この限りでない。
. 前項但書の場合には、変更後の公判期日において、まず、検察官及び被告人又は弁護人に対し、異議を申し立てる機会を与えなければならない。

第二百七十七条(不当な期日に対する救済)
裁判所がその権限を濫用して公判期日を変更したときは、訴訟関係人は、最高裁判所の規則又は訓令の定めるところにより、司法行政監督上の措置を求めることができる。

第二百七十八条(不出頭と診断書の提出)
公判期日に召喚を受けた者が病気その他の事由によって出頭することができないときは、裁判所の規則の定めるところにより、医師の診断書その他の資料を提出しなければならない。

第二百七十八条の二(検察官・弁護人に対する出頭命令)
裁判所は、必要と認めるときは、検察官又は弁護人に対し、公判準備又は公判期日に出頭し、かつ、これらの手続が行われている間在席し又は在廷することを命ずることができる。
. 裁判長は、急速を要する場合には、前項に規定する命令をし、又は合議体の構成員にこれをさせることができる。
. 前二項の規定による命令を受けた検察官又は弁護人が正当な理由がなくこれに従わないときは、決定で、十万円以下の過料に処し、かつ、その命令に従わないために生じた費用の賠償を命ずることができる。
. 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
. 裁判所は、第三項の決定をしたときは、検察官については当該検察官を指揮監督する権限を有する者に、弁護士である弁護人については当該弁護士の所属する弁護士会又は日本弁護士連合会に通知し、適当な処置をとるべきことを請求しなければならない。
. 前項の規定による請求を受けた者は、そのとった処置を裁判所に通知しなければならない。

第二百七十九条(公務所等に対する照会)
裁判所は、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

第二百八十条(勾留に関する処分)
公訴の提起があった後第一回の公判期日までは、勾留に関する処分は、裁判官がこれを行う。
. 第百九十九条(捜査状による逮捕の要件)若しくは第二百十条(緊急逮捕)の規定により逮捕され、又は現行犯人として逮捕された被疑者でまだ勾留されていないものについて第二百四条(検察官の手続・勾留請求の時間の制限)又は第二百五条(司法警察員から送致を受けた検察官の手続・勾留請求の時間の制限)の時間の制限内に公訴の提起があった場合には、裁判官は、速やかに、被告事件を告げ、これに関する陳述を聴き、勾留状を発しないときは、直ちにその釈放を命じなければならない。
. 前二項の裁判官は、その処分に関し、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。

第二百八十一条(期日外の証人尋問)
証人については、裁判所は、第百五十八条(証人の裁判所外への喚問・所在尋問、当事者の権利)に掲げる事項を考慮した上、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き必要と認めるときに限り、公判期日外においてこれを尋問することができる。

第二百八十一条の二(被告人の退席)
裁判所は、公判期日外における証人尋問に被告人が立ち会った場合において、証人が被告人の面前(第百五十七条の三第一項(証人尋問の際の証人への遮へい)に規定する措置を採る場合及び第百五十七条の四第一項(ビデオリンク方式による証人尋問)に規定する方法による場合を含む。)においては圧迫を受け充分な供述をすることができないと認めるときは、弁護人が立ち会っている場合に限り、検察官及び弁護人の意見を聴き、その証人の供述中被告人を退席させることができる。この場合には、供述終了後被告人に証言の要旨を告知し、その証人を尋問する機会を与えなければならない。

第二百八十一条の三(開示された証拠の管理)
弁護人は、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等(複製その他証拠の全部又は一部をそのまま記録した物及び書面をいう。以下同じ。)を適正に管理し、その保管をみだりに他人にゆだねてはならない。

第二百八十一条の四(開示された証拠の目的外使用の禁止)
被告人若しくは弁護人(第四百四十条(弁護人選任)に規定する弁護人を含む。)又はこれらであった者は、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、次に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供してはならない。
. 当該被告事件の審理その他の当該被告事件に係る裁判のための審理
. 当該被告事件に関する次に掲げる手続
. 第一編(総則)第十六章(費用の補償)の規定による費用の補償の手続
. 第三百四十九条第一項(刑の執行猶予取消しの請求)の請求があった場合の手続
. 第三百五十条(併合罪中大赦を受けない罪の刑を定める手続)の請求があった場合の手続
. 上訴権回復の請求の手続
. 再審の請求の手続
. 非常上告の手続
. 第五百条第一項(訴訟費用執行免除の申立て)の申立ての手続
. 第五百二条(異議の申立て)の申立ての手続
. 刑事補償法の規定による補償の請求の手続
. 前項の規定に違反した場合の措置については、被告人の防御権を踏まえ、複製等の内容、行為の目的及び態様、関係人の名誉、その私生活又は業務の平穏を害されているかどうか、当該複製等に係る証拠が公判期日において取り調べられたものであるかどうか、その取調べの方法その他の事情を考慮するものとする。

第二百八十一条の五(目的外使用の罪)
被告人又は被告人であった者が、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、前条第一項各号に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときは、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
. 弁護人(第四百四十条(弁護人選任)に規定する弁護人を含む。以下この項において同じ。)又は弁護人であった者が、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、対価として財産上の利益その他の利益を得る目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときも、前項と同様とする。

第二百八十一条の六(連日的鑑定の確保)
裁判所は、審理に二日以上を要する事件については、できる限り、連日開廷し、継続して審理を行わなければならない。
. 訴訟関係人は、期日を厳守し、審理に支障を来さないようにしなければならない。

第二百八十二条(公判廷)
公判期日における取調は、公判廷でこれを行う。
. 公判廷は、裁判官及び裁判所書記が列席し、且つ検察官が出席してこれを開く。

第二百八十三条(被告人たる法人と代理人の出頭)
被告人が法人である場合には、代理人を出頭させることができる。

第二百八十四条(軽微事件における出頭義務の免除・代理人の出頭)
五十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、五万円)以下の罰金又は科料に当たる事件については、被告人は、公判期日に出頭することを要しない。ただし、被告人は、代理人を出頭させることができる。

第二百八十五条(出頭義務とその免除)
拘留にあたる事件の被告人は、判決の宣告をする場合には、公判期日に出頭しなければならない。その他の場合には、裁判所は、被告人の出頭がその権利の保護のため重要でないと認めるときは、被告人に対し公判期日に出頭しないことを許すことができる。
. 長期三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、五万円)を超える罰金に当たる事件の被告人は、第二百九十一条(冒頭手続)の手続をする場合及び判決の宣告をする場合には、公判期日に出頭しなければならない。その他の場合には、前項後段の例による。

第二百八十六条(被告人の出頭の権利義務)
前三条に規定する場合の外、被告人が公判期日に出頭しないときは、開廷することはできない。

第二百八十六条の二(出頭拒否と公判)
手続被告人が出頭しなければ開廷することができない場合において、勾留されている被告人が、公判期日に召喚を受け、正当な理由がなく出頭を拒否し、刑事施設職員による引致を著しく困難にしたときは、裁判所は、被告人が出頭しないでも、その期日の公判手続を行うことができる。

第二百八十七条(身体の不拘束)公判廷においては、被告人の身体を拘束してはならない。但し、被告人が暴力を振い又は逃亡を企てた場合は、この限りでない。
. 被告人の身体を拘束しない場合にも、これに看守者を附することができる。

第二百八十八条(被告人の存在義務、法定警察権)
被告人は、裁判長の許可がなければ、退廷することができない。
. 裁判長は、被告人を在廷させるため、又は法廷の秩序を維持するため相当な処分をすることができる。

第二百八十九条(必要的弁護)
死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件を審理する場合には、弁護人がなければ開廷することはできない。
. 弁護人がなければ開廷することができない場合において、弁護人が出頭しないとき若しくは在廷しなくなったとき、又は弁護人がないときは、裁判長は、職権で弁護人を付さなければならない。
. 弁護人がなければ開廷することができない場合において、弁護人が出頭しないおそれがあるときは、裁判所は、職権で弁護人を付することができる。

第二百九十条(任意的国選弁護)
第三十七条各号の場合に弁護人が出頭しないときは、裁判所は、職権で弁護人を附することができる。

第二百九十条の二(公開の法廷での被害者特定事項の秘匿)
裁判所は、次に掲げる事件を取り扱う場合において、当該事件の被害者等(被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう。以下同じ。)若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から申出があるときは、被告人又は弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、被害者特定事項(氏名及び住所その他の当該事件の被害者を特定させることとなる事項をいう。以下同じ。)を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。
. 刑法第百七十六条(強制わいせつ)から第百七十八条の二(集団強姦等)まで若しくは第百八十一条(強制わいせつ等致死傷)の罪、同法第二百二十五条(営利目的等略取及び誘拐)若しくは第二百二十六条の二第三項(身体に対する加害目的で人を買い受けた者)の罪(わいせつ又は結婚の目的に係る部分に限る。以下この号において同じ。)、同法第二百二十七条第一項(被略取者引渡し等)(第二百二十五条(営利目的等略取及び誘拐)又は第二百二十六条の二第三項(身体に対する加害目的で人を買い受けた者)の罪を犯した者を幇助する目的に係る部分に限る。)若しくは第三項(営利目的等で被略取者引渡し等)(わいせつの目的に係る部分に限る。)若しくは第二百四十一条(強盗強姦及び同致死)の罪又はこれらの罪の未遂罪に係る事件
. 児童福祉法第六十条第一項(禁止行為違反)の罪若しくは同法第三十四条第一項第九号(有害行為目的による自己支配)に係る同法第六十条第二項(禁止行為違反)の罪又は児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第四条(児童買春)から第八条(児童買春目的人身売買等)までの罪に係る事件
. 前二号に掲げる事件のほか、犯行の態様、被害の状況その他の事情により、被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる事件
. 前項の申出は、あらかじめ、検察官にしなければならない。この場合において、検察官は、意見を付して、これを裁判所に通知するものとする。
. 裁判所は、第一項に定めるもののほか、犯行の態様、被害の状況その他の事情により、被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認められる事件を取り扱う場合において、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。
. 裁判所は、第一項又は前項の決定をした事件について、被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしないことが相当でないと認めるに至ったとき、第三百十二条(起訴状の変更)の規定により罰条が撤回若しくは変更されたため第一項第一号若しくは第二号に掲げる事件に該当しなくなったとき又は同項第三号に掲げる事件若しくは前項に規定する事件に該当しないと認めるに至ったときは、決定で、第一項又は前項の決定を取り消さなければならない。

第二百九十一条(冒頭手続)
検察官は、まず、起訴状を朗読しなければならない。
. 前条第一項又は第三項の決定があったときは、前項の起訴状の朗読は、被害者特定事項を明らかにしない方法でこれを行うものとする。この場合においては、検察官は、被告人に起訴状を示さなければならない。
. 裁判長は、起訴状の朗読が終った後、被告人に対し、終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨その他裁判所の規則で定める被告人の権利を保護するため必要な事項を告げた上、被告人及び弁護人に対し、被告事件について陳述する機会を与えなければならない。

第二百九十一条の二(簡易公判手続の決定)
被告人が、前条第三項の手続に際し、起訴状に記載された訴因について有罪である旨を陳述したときは、裁判所は、検察官、被告人及び弁護人の意見を聴き、有罪である旨の陳述のあった訴因に限り、簡易公判手続によって審判をする旨の決定をすることができる。ただし、死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件については、この限りでない。

第二百九十一条の三(決定の取消し)
裁判所は、前条の決定があった事件が簡易公判手続によることができないものであり、又はこれによることが相当でないものであると認めるときは、その決定を取り消さなければならない。

第二百九十二条(証拠調べ)
証拠調べは、第二百九十一条''(冒頭手続)の手続が終った後、これを行う。ただし、次節第一款に定める公判前整理手続において争点及び証拠の整理のために行う手続については、この限りでない。

第二百九十二条の二(被害者等の意見陳述)
裁判所は、被害者等又は当該被害者の法定代理人から、被害に関する心情その他の被告事件に関する意見の陳述の申出があるときは、公判期日において、その意見を陳述させるものとする。
. 前項の規定による意見の陳述の申出は、あらかじめ、検察官にしなければならない。この場合において、検察官は、意見を付して、これを裁判所に通知するものとする。
. 裁判長又は陪席の裁判官は、被害者等又は当該被害者の法定代理人が意見を陳述した後、その趣旨を明確にするため、これらの者に質問することができる。
. 訴訟関係人は、被害者等又は当該被害者の法定代理人が意見を陳述した後、その趣旨を明確にするため、裁判長に告げて、これらの者に質問することができる。
. 裁判長は、被害者等若しくは当該被害者の法定代理人の意見の陳述又は訴訟関係人の被害者等若しくは当該被害者の法定代理人に対する質問が既にした陳述若しくは質問と重複するとき、又は事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないときは、これを制限することができる。
. 第百五十七条の二(証人への付添い)、第百五十七条の三(証人尋問の際の証人への遮へい)及び第百五十七条の四第一項(ビデオリンク方式による証人尋問)の規定は、第一項の規定による意見の陳述について準用する。
. 裁判所は、審理の状況その他の事情を考慮して、相当でないと認めるときは、意見の陳述に代え意見を記載した書面を提出させ、又は意見の陳述をさせないことができる。
. 前項の規定により書面が提出された場合には、裁判長は、公判期日において、その旨を明らかにしなければならない。この場合において、裁判長は、相当と認めるときは、その書面を朗読し、又はその要旨を告げることができる。
. 第一項の規定による陳述又は第七項の規定による書面は、犯罪事実の認定のための証拠とすることができない。

第二百九十三条(弁論)
証拠調が終った後、検察官は、事実及び法律の適用について意見を陳述しなければならない。
. 被告人及び弁護人は、意見を陳述することができる。

第二百九十四条(訴訟指揮権)
公判期日における訴訟の指揮は、裁判長がこれを行う。

第二百九十五条(弁論等の制限)
裁判長は、訴訟関係人のする尋問又は陳述が既にした尋問若しくは陳述と重複するとき、又は事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないときは、訴訟関係人の本質的な権利を害しない限り、これを制限することができる。訴訟関係人の被告人に対する供述を求める行為についても同様である。
. 裁判長は、証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人を尋問する場合において、証人、鑑定人、通訳人若しくは翻訳人若しくはこれらの親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあり、これらの者の住居、勤務先その他その通常所在する場所が特定される事項が明らかにされたならば証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人が十分な供述をすることができないと認めるときは、当該事項についての尋問を制限することができる。ただし、検察官のする尋問を制限することにより犯罪の証明に重大な支障を生ずるおそれがあるとき、又は被告人若しくは弁護人のする尋問を制限することにより被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときは、この限りでない。
. 裁判長は、第二百九十条の二第一項(公開の法廷での被害者特定事項の秘匿)又は第三項(被害者特定事項の秘匿)の決定があった場合において、訴訟関係人のする尋問又は陳述が被害者特定事項にわたるときは、これを制限することにより、犯罪の証明に重大な支障を生ずるおそれがある場合又は被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがある場合を除き、当該尋問又は陳述を制限することができる。訴訟関係人の被告人に対する供述を求める行為についても、同様とする。
. 裁判所は、前三項の規定による命令を受けた検察官又は弁護士である弁護人がこれに従わなかった場合には、検察官については当該検察官を指揮監督する権限を有する者に、弁護士である弁護人については当該弁護士の所属する弁護士会又は日本弁護士連合会に通知し、適当な処置をとるべきことを請求することができる。
. 前項の規定による請求を受けた者は、そのとった処置を裁判所に通知しなければならない。

第二百九十六条(検察官の冒頭陳述)
証拠調のはじめに、検察官は、証拠により証明すべき事実を明らかにしなければならない。但し、証拠とすることができず、又は証拠としてその取調を請求する意思のない資料に基いて、裁判所に事件について偏見又は予断を生ぜしめる虞のある事項を述べることはできない。

第二百九十七条(証拠調べの範囲・順序・方法の予定とその変更)
裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、証拠調の範囲、順序及び方法を定めることができる。
. 前項の手続は、合議体の構成員にこれをさせることができる。
. 裁判所は、適当と認めるときは、何時でも、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、第一項の規定により定めた証拠調の範囲、順序又は方法を変更することができる。

第二百九十八条(証拠調べの請求、職権証拠調べ)
検察官、被告人又は弁護人は、証拠調を請求することができる。
. 裁判所は、必要と認めるときは、職権で証拠調をすることができる。

第二百九十九条(同前と当事者の権利)
検察官、被告人又は弁護人が証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の尋問を請求するについては、あらかじめ、相手方に対し、その氏名及び住居を知る機会を与えなければならない。証拠書類又は証拠物の取調を請求するについては、あらかじめ、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。但し、相手方に異議のないときは、この限りでない。
. 裁判所が職権で証拠調の決定をするについては、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならない。

第二百九十九条の二(証人等の身体・財産への加害行為等の防止のための配慮)
検察官又は弁護人は、前条第一項の規定により証人、鑑定人、通訳人若しくは翻訳人の氏名及び住居を知る機会を与え又は証拠書類若しくは証拠物を閲覧する機会を与えるに当たり、証人、鑑定人、通訳人若しくは翻訳人若しくは証拠書類若しくは証拠物にその氏名が記載されている者若しくはこれらの親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるときは、相手方に対し、その旨を告げ、これらの者の住居、勤務先その他その通常所在する場所が特定される事項が、犯罪の証明若しくは犯罪の捜査又は被告人の防御に関し必要がある場合を除き、関係者(被告人を含む。)に知られないようにすることその他これらの者の安全が脅かされることがないように配慮することを求めることができる。

第二百九十九条の三(証拠開示の際の被害者特定事項の秘匿要請)
検察官は、第二百九十九条第一項(証拠調べ等の当事者の権利)の規定により証人の氏名及び住居を知る機会を与え又は証拠書類若しくは証拠物を閲覧する機会を与えるに当たり、被害者特定事項が明らかにされることにより、被害者等の名誉若しくは社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認めるとき、又は被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくはこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるときは、弁護人に対し、その旨を告げ、被害者特定事項が、被告人の防御に関し必要がある場合を除き、被告人その他の者に知られないようにすることを求めることができる。ただし、被告人に知られないようにすることを求めることについては、被害者特定事項のうち起訴状に記載された事項以外のものに限る。

第三百条(証拠調べの請求の義務)
第三百二十一条第一項第二号後段(検察官の面前における供述録取書の相反供述)の規定により証拠とすることができる書面については、検察官は、必ずその取調を請求しなければならない。

第三百一条(自白と証拠調べの請求の制限)
第三百二十二条(被告人の供述書・供述録取書の証拠能力)及び第三百二十四条第一項(伝聞の供述)の規定により証拠とすることができる被告人の供述が自白である場合には、犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後でなければ、その取調を請求することはできない。

第三百二条(捜査記録の一部についての証拠調べの請求)
第三百二十一条(被告人以外の者の供述書・供述録取書の証拠能力)乃至第三百二十三条(その他の書面の証拠能力)又は第三百二十六条(当事者の同意と書面供述の証拠能力)の規定により証拠とすることができる書面が捜査記録の一部であるときは、検察官は、できる限り他の部分と分離してその取調を請求しなければならない。

第三百三条(公判準備の結果と証拠調べの請求)
公判準備においてした証人その他の者の尋問、検証、押収及び捜索の結果を記載した書面並びに押収した物については、裁判所は、公判期日において証拠書類又は証拠物としてこれを取り調べなければならない。

第三百四条(人的証拠に対する証拠調べの方式)
証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人は、裁判長又は陪席の裁判官が、まず、これを尋問する。
. 検察官、被告人又は弁護人は、前項の尋問が終った後、裁判長に告げて、その証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人を尋問することができる。この場合において、その証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の取調が、検察官、被告人又は弁護人の請求にかかるものであるときは、請求をした者が、先に尋問する。
. 裁判所は、適当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、前二項の尋問の順序を変更することができる。

第三百四条の二(被告人の退廷)
裁判所は、証人を尋問する場合において、証人が被告人の面前(第百五十七条の三第一項(証人尋問の際の証人への遮へい)に規定する措置を採る場合及び第百五十七条の四第一項(ビデオリンク方式による証人尋問)に規定する方法による場合を含む。)においては圧迫を受け充分な供述をすることができないと認めるときは、弁護人が出頭している場合に限り、検察官及び弁護人の意見を聴き、その証人の供述中被告人を退廷させることができる。この場合には、供述終了後被告人を入廷させ、これに証言の要旨を告知し、その証人を尋問する機会を与えなければならない。

第三百五条(証拠書類等に対する証拠調べの方式)
検察官、被告人又は弁護人の請求により、証拠書類の取調をするについては、裁判長は、その取調を請求した者にこれを朗読させなければならない。但し、裁判長は、自らこれを朗読し、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記にこれを朗読させることができる。
. 裁判所が職権で証拠書類の取調をするについては、裁判長は、自らその書類を朗読し、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記にこれを朗読させなければならない。
. 第二百九十条の二第一項(公開の法廷での被害者特定事項の秘匿)又は第三項(被害者特定事項の秘匿)の決定があったときは、前二項の規定による証拠書類の朗読は、被害者特定事項を明らかにしない方法でこれを行うものとする。
. 第百五十七条の四第三項(証人尋問の記録媒体)の規定により記録媒体がその一部とされた調書の取調べについては、第一項又は第二項の規定による朗読に代えて、当該記録媒体を再生するものとする。ただし、裁判長は、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、当該記録媒体の再生に代えて、当該調書の取調べを請求した者、陪席の裁判官若しくは裁判所書記官に当該調書に記録された供述の内容を告げさせ、又は自らこれを告げることができる。
. 裁判所は、前項の規定により第百五十七条の四第三項(証人尋問の記録媒体)に規定する記録媒体を再生する場合において、必要と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、第百五十七条の三(証人尋問の際の証人への遮へい)に規定する措置を採ることができる。

第三百六条(証拠物に対する証拠調べの方式)
検察官、被告人又は弁護人の請求により、証拠物の取調をするについては、裁判長は、請求をした者をしてこれを示させなければならない。但し、裁判長は、自らこれを示し、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記にこれを示させることができる。
. 裁判所が職権で証拠物の取調をするについては、裁判長は、自らこれを訴訟関係人に示し、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記にこれを示させなければならない。

第三百七条(同前)
証拠物中書面の意義が証拠となるものの取調をするについては、前条の規定による外、第三百五条の規定による。

第三百七条の二(簡易公判手続き)
第二百九十一条の二(簡易公判手続の決定)の決定があった事件については、第二百九十六条(検察官の冒頭陳述)、第二百九十七条(証拠調べの範囲・順序・方法の予定とその変更)、第三百条(証拠調べの請求の義務)乃至第三百二条(捜査記録の一部についての証拠調べの請求)及び第三百四条(人的証拠に対する証拠調べの方式)乃至前条の規定は、これを適用せず、証拠調は、公判期日において、適当と認める方法でこれを行うことができる。

第三百八条(証明力を争う権利)
裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人に対し、証拠の証明力を争うために必要とする適当な機会を与えなければならない。

第三百九条(証拠調べに関する異議申立て)
検察官、被告人又は弁護人は、証拠調に関し異議を申し立てることができる。
. 検察官、被告人又は弁護人は、前項に規定する場合の外、裁判長の処分に対して異議を申し立てることができる。
. 裁判所は、前二項の申立について決定をしなければならない。

第三百十条(被告人の黙秘権・供述拒否権、任意の供述)
証拠調を終った証拠書類又は証拠物は、遅滞なくこれを裁判所に提出しなければならない。但し、裁判所の許可を得たときは、原本に代え、その謄本を提出することができる。

第三百十一条(被告人の黙秘権・供述拒否権、任意の供述)
被告人は、終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる。
. 被告人が任意に供述をする場合には、裁判長は、何時でも必要とする事項につき被告人の供述を求めることができる。
. 陪席の裁判官、検察官、弁護人、共同被告人又はその弁護人は、裁判長に告げて、前項の供述を求めることができる。

第三百十二条(起訴状の変更)
裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。
. 裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因又は罰条を追加又は変更すべきことを命ずることができる。
. 裁判所は、訴因又は罰条の追加、撤回又は変更があったときは、速やかに追加、撤回又は変更された部分を被告人に通知しなければならない。
. 裁判所は、訴因又は罰条の追加又は変更により被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞があると認めるときは、被告人又は弁護人の請求により、決定で、被告人に充分な防禦の準備をさせるため必要な期間公判手続を停止しなければならない。

第三百十三条(弁論の分離・併合・再開)
裁判所は、適当と認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、決定を以て、弁論を分離し若しくは併合し、又は終結した弁論を再開することができる。
. 裁判所は、被告人の権利を保護するため必要があるときは、裁判所の規則の定めるところにより、決定を以て弁論を分離しなければならない。

第三百十三条の二(併合事件における弁護人選任の効力)
この法律の規定に基づいて裁判所若しくは裁判長又は裁判官が付した弁護人の選任は、弁論が併合された事件についてもその効力を有する。ただし、裁判所がこれと異なる決定をしたときは、この限りでない。
. 前項ただし書の決定をするには、あらかじめ、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならない。

第三百十四条(公判手続の停止)
被告人が心神喪失の状態に在るときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、その状態の続いている間公判手続を停止しなければならない。但し、無罪、免訴、刑の免除又は公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合には、被告人の出頭を待たないで、直ちにその裁判をすることができる。
. 被告人が病気のため出頭することができないときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、出頭することができるまで公判手続を停止しなければならない。但し、第二百八十四条(軽微事件における出頭義務の免除・代理人の出頭)及び第二百八十五条(出頭義務とその免除)の規定により代理人を出頭させた場合は、この限りでない。
. 犯罪事実の存否の証明に欠くことのできない証人が病気のため公判期日に出頭することができないときは、公判期日外においてその取調をするのを適当と認める場合の外、決定で、出頭することができるまで公判手続を停止しなければならない。
. 前三項の規定により公判手続を停止するには、医師の意見を聴かなければならない。

第三百十五条(公判手続の更新)
開廷後裁判官がかわったときは、公判手続を更新しなければならない。但し、判決の宣告をする場合は、この限りでない。

第三百十五条の二(簡易公判手続の決定の取消しと手続の更新)
第二百九十一条の二(簡易公判手続の決定)の決定が取り消されたときは、公判手続を更新しなければならない。但し、検察官及び被告人又は弁護人に異議がないときは、この限りでない。

第三百十六条(合議制事件と一人の裁判官の手続の効力)
地方裁判所において一人の裁判官のした訴訟手続は、被告事件が合議体で審判すべきものであった場合にも、その効力を失わない。

第二章 公訴

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