第二章 強制執行
第一節
(債務名義)
第二十二条 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一 確定判決
二 仮執行の宣言を付した判決
三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあっては、確定したものに限る。)
三の二 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
三の三 仮執行の宣言を付した届出債権支払命令
四 仮執行の宣言を付した支払督促
四の二 訴訟費用、和解の費用若しくは非訟事件(他の法令の規定により非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)の規定を準用することとされる事件を含む。)、家事事件若しくは国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(平成二十五年法律第四十八号)第二十九条に規定する子の返還に関する事件の手続の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあっては、確定したものに限る。)
五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六 確定した執行判決のある外国裁判所の判決(家事事件における裁判を含む。第二十四条において同じ。)
六の二 確定した執行決定のある仲裁判断
七 確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)
(強制執行をすることができる者の範囲)
第二十三条 執行証書以外の債務名義による強制執行は、次に掲げる者に対し、又はその者のためにすることができる。
一 債務名義に表示された当事者
二 債務名義に表示された当事者が他人のために当事者となった場合のその他人
三 前二号に掲げる者の債務名義成立後の承継人(前条第一号、第二号又は第六号に掲げる債務名義にあっては口頭弁論終結後の承継人、同条第三号の二に掲げる債務名義又は同条第七号に掲げる債務名義のうち損害賠償命令に係るものにあっては審理終結後の承継人)
2 執行証書による強制執行は、執行証書に表示された当事者又は執行証書作成後のその承継人に対し、若しくはこれらの者のためにすることができる。
3 第一項に規定する債務名義による強制執行は、同項各号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者に対しても、することができる。
(外国裁判所の判決の執行判決)
第二十四条 外国裁判所の判決についての執行判決を求める訴えは、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所(家事事件における裁判に係るものにあっては、家庭裁判所。以下この項において同じ。)が管轄し、この普通裁判籍がないときは、請求の目的又は差し押さえることができる債務者の財産の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
2 前項に規定する地方裁判所は、同項の訴えの全部又は一部が家庭裁判所の管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、同項の規定にかかわらず、申立てにより又は職権で、当該訴えに係る訴訟の全部又は一部について自ら審理及び裁判をすることができる。
3 第一項に規定する家庭裁判所は、同項の訴えの全部又は一部が地方裁判所の管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、同項の規定にかかわらず、申立てにより又は職権で、当該訴えに係る訴訟の全部又は一部について自ら審理及び裁判をすることができる。
4 執行判決は、裁判の当否を調査しないでしなければならない。
5 第一項の訴えは、外国裁判所の判決が、確定したことが証明されないとき、又は民事訴訟法第百十八条各号(家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)第七十九条の二において準用する場合を含む。)に掲げる要件を具備しないときは、却下しなければならない。
6 執行判決においては、外国裁判所の判決による強制執行を許す旨を宣言しなければならない。
(強制執行の実施)
第二十五条 強制執行は、執行文の付された債務名義の正本に基づいて実施する。ただし、少額訴訟における確定判決又は仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決若しくは支払督促により、これに表示された当事者に対し、又はその者のためにする強制執行は、その正本に基づいて実施する。
(執行文の付与)
第二十六条 執行文は、申立てにより、執行証書以外の債務名義については事件の記録の存する裁判所の裁判所書記官が、執行証書についてはその原本を保存する公証人が付与する。
2 執行文の付与は、債権者が債務者に対しその債務名義により強制執行をすることができる場合に、その旨を債務名義の正本の末尾に付記する方法により行う。
第二十七条 請求が債権者の証明すべき事実の到来に係る場合においては、執行文は、債権者がその事実の到来したことを証する文書を提出したときに限り、付与することができる。
2 債務名義に表示された当事者以外の者を債権者又は債務者とする執行文は、その者に対し、又はその者のために強制執行をすることができることが裁判所書記官若しくは公証人に明白であるとき、又は債権者がそのことを証する文書を提出したときに限り、付与することができる。
3 執行文は、債務名義について次に掲げる事由のいずれかがあり、かつ、当該債務名義に基づく不動産の引渡し又は明渡しの強制執行をする前に当該不動産を占有する者を特定することを困難とする特別の事情がある場合において、債権者がこれらを証する文書を提出したときに限り、債務者を特定しないで、付与することができる。
一 債務名義が不動産の引渡し又は明渡しの請求権を表示したものであり、これを本案とする占有移転禁止の仮処分命令(民事保全法(平成元年法律第九十一号)第二十五条の二第一項に規定する占有移転禁止の仮処分命令をいう。)が執行され、かつ、同法第六十二条第一項の規定により当該不動産を占有する者に対して当該債務名義に基づく引渡し又は明渡しの強制執行をすることができるものであること。
二 債務名義が強制競売の手続(担保権の実行としての競売の手続を含む。以下この号において同じ。)における第八十三条第一項本文(第百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による命令(以下「引渡命令」という。)であり、当該強制競売の手続において当該引渡命令の引渡義務者に対し次のイからハまでのいずれかの保全処分及び公示保全処分(第五十五条第一項に規定する公示保全処分をいう。以下この項において同じ。)が執行され、かつ、第八十三条の二第一項(第百八十七条第五項又は第百八十八条において準用する場合を含む。)の規定により当該不動産を占有する者に対して当該引渡命令に基づく引渡しの強制執行をすることができるものであること。
イ 第五十五条第一項第三号(第百八十八条において準用する場合を含む。)に掲げる保全処分及び公示保全処分
ロ 第七十七条第一項第三号(第百八十八条において準用する場合を含む。)に掲げる保全処分及び公示保全処分
ハ 第百八十七条第一項に規定する保全処分又は公示保全処分(第五十五条第一項第三号に掲げるものに限る。)
4 前項の執行文の付された債務名義の正本に基づく強制執行は、当該執行文の付与の日から四週間を経過する前であって、当該強制執行において不動産の占有を解く際にその占有者を特定することができる場合に限り、することができる。
5 第三項の規定により付与された執行文については、前項の規定により当該執行文の付された債務名義の正本に基づく強制執行がされたときは、当該強制執行によって当該不動産の占有を解かれた者が、債務者となる。
(執行文の再度付与等)
第二十八条 執行文は、債権の完全な弁済を得るため執行文の付された債務名義の正本が数通必要であるとき、又はこれが滅失したときに限り、更に付与することができる。
2 前項の規定は、少額訴訟における確定判決又は仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決若しくは支払督促の正本を更に交付する場合について準用する。
(債務名義等の送達)
第二十九条 強制執行は、債務名義又は確定により債務名義となるべき裁判の正本又は謄本が、あらかじめ、又は同時に、債務者に送達されたときに限り、開始することができる。第二十七条の規定により執行文が付与された場合においては、執行文及び同条の規定により債権者が提出した文書の謄本も、あらかじめ、又は同時に、送達されなければならない。
(期限の到来又は担保の提供に係る場合の強制執行)
第三十条 請求が確定期限の到来に係る場合においては、強制執行は、その期限の到来後に限り、開始することができる。
2 担保を立てることを強制執行の実施の条件とする債務名義による強制執行は、債権者が担保を立てたことを証する文書を提出したときに限り、開始することができる。
(反対給付又は他の給付の不履行に係る場合の強制執行)
第三十一条 債務者の給付が反対給付と引換えにすべきものである場合においては、強制執行は、債権者が反対給付又はその提供のあったことを証明したときに限り、開始することができる。
2 債務者の給付が、他の給付について強制執行の目的を達することができない場合に、他の給付に代えてすべきものであるときは、強制執行は、債権者が他の給付について強制執行の目的を達することができなかったことを証明したときに限り、開始することができる。
(執行文の付与等に関する異議の申立て)
第三十二条 執行文の付与の申立てに関する処分に対しては、裁判所書記官の処分にあってはその裁判所書記官の所属する裁判所に、公証人の処分にあってはその公証人の役場の所在地を管轄する地方裁判所に異議を申し立てることができる。
2 執行文の付与に対し、異議の申立てがあったときは、裁判所は、異議についての裁判をするまでの間、担保を立てさせ、若しくは立てさせないで強制執行の停止を命じ、又は担保を立てさせてその続行を命ずることができる。急迫の事情があるときは、裁判長も、これらの処分を命ずることができる。
3 第一項の規定による申立てについての裁判及び前項の規定による裁判は、口頭弁論を経ないですることができる。
4 前項に規定する裁判に対しては、不服を申し立てることができない。
5 前各項の規定は、第二十八条第二項の規定による少額訴訟における確定判決又は仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決若しくは支払督促の正本の交付について準用する。
(執行文付与の訴え)
第三十三条 第二十七条第一項又は第二項に規定する文書の提出をすることができないときは、債権者は、執行文(同条第三項の規定により付与されるものを除く。)の付与を求めるために、執行文付与の訴えを提起することができる。
2 前項の訴えは、次の各号に掲げる債務名義の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める裁判所が管轄する。
一 第二十二条第一号から第三号まで、第六号又は第六号の二に掲げる債務名義並びに同条第七号に掲げる債務名義のうち次号、第一号の三及び第六号に掲げるもの以外のもの 第一審裁判所
一の二 第二十二条第三号の二に掲げる債務名義並びに同条第七号に掲げる債務名義のうち損害賠償命令並びに損害賠償命令事件に関する手続における和解及び請求の認諾に係るもの 損害賠償命令事件が係属していた地方裁判所
一の三 第二十二条第三号の三に掲げる債務名義並びに同条第七号に掲げる債務名義のうち届出債権支払命令並びに簡易確定手続における届出債権の認否及び和解に係るもの 簡易確定手続が係属していた地方裁判所
二 第二十二条第四号に掲げる債務名義のうち次号に掲げるもの以外のもの 仮執行の宣言を付した支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所(仮執行の宣言を付した支払督促に係る請求が簡易裁判所の管轄に属しないものであるときは、その簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所)
三 第二十二条第四号に掲げる債務名義のうち民事訴訟法第百三十二条の十第一項本文の規定による支払督促の申立て又は同法第四百二条第一項に規定する方式により記載された書面をもってされた支払督促の申立てによるもの 当該支払督促の申立てについて同法第三百九十八条(同法第四百二条第二項において準用する場合を含む。)の規定により訴えの提起があったものとみなされる裁判所
四 第二十二条第四号の二に掲げる債務名義 同号の処分をした裁判所書記官の所属する裁判所
五 第二十二条第五号に掲げる債務名義 債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所(この普通裁判籍がないときは、請求の目的又は差し押さえることができる債務者の財産の所在地を管轄する裁判所)
六 第二十二条第七号に掲げる債務名義のうち和解若しくは調停(上級裁判所において成立した和解及び調停を除く。)又は労働審判に係るもの(第一号の二及び第一号の三に掲げるものを除く。) 和解若しくは調停が成立した簡易裁判所、地方裁判所若しくは家庭裁判所(簡易裁判所において成立した和解又は調停に係る請求が簡易裁判所の管轄に属しないものであるときは、その簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所)又は労働審判が行われた際に労働審判事件が係属していた地方裁判所
(執行文付与に対する異議の訴え)
第三十四条 第二十七条の規定により執行文が付与された場合において、債権者の証明すべき事実の到来したこと又は債務名義に表示された当事者以外の者に対し、若しくはその者のために強制執行をすることができることについて異議のある債務者は、その執行文の付された債務名義の正本に基づく強制執行の不許を求めるために、執行文付与に対する異議の訴えを提起することができる。
2 異議の事由が数個あるときは、債務者は、同時に、これを主張しなければならない。
3 前条第二項の規定は、第一項の訴えについて準用する。
(請求異議の訴え)
第三十五条 債務名義(第二十二条第二号又は第三号の二から第四号までに掲げる債務名義で確定前のものを除く。以下この項において同じ。)に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は、その債務名義による強制執行の不許を求めるために、請求異議の訴えを提起することができる。裁判以外の債務名義の成立について異議のある債務者も、同様とする。
2 確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。
3 第三十三条第二項及び前条第二項の規定は、第一項の訴えについて準用する。
(執行文付与に対する異議の訴え等に係る執行停止の裁判)
第三十六条 執行文付与に対する異議の訴え又は請求異議の訴えの提起があった場合において、異議のため主張した事情が法律上理由があるとみえ、かつ、事実上の点について疎明があったときは、受訴裁判所は、申立てにより、終局判決において次条第一項の裁判をするまでの間、担保を立てさせ、若しくは立てさせないで強制執行の停止を命じ、又はこれとともに、担保を立てさせて強制執行の続行を命じ、若しくは担保を立てさせて既にした執行処分の取消しを命ずることができる。急迫の事情があるときは、裁判長も、これらの処分を命ずることができる。
2 前項の申立てについての裁判は、口頭弁論を経ないですることができる。
3 第一項に規定する事由がある場合において、急迫の事情があるときは、執行裁判所は、申立てにより、同項の規定による裁判の正本を提出すべき期間を定めて、同項に規定する処分を命ずることができる。この裁判は、執行文付与に対する異議の訴え又は請求異議の訴えの提起前においても、することができる。
4 前項の規定により定められた期間を経過したとき、又はその期間内に第一項の規定による裁判が執行裁判所若しくは執行官に提出されたときは、前項の裁判は、その効力を失う。
5 第一項又は第三項の申立てについての裁判に対しては、不服を申し立てることができない。
(終局判決における執行停止の裁判等)
第三十七条 受訴裁判所は、執行文付与に対する異議の訴え又は請求異議の訴えについての終局判決において、前条第一項に規定する処分を命じ、又は既にした同項の規定による裁判を取り消し、変更し、若しくは認可することができる。この裁判については、仮執行の宣言をしなければならない。
2 前項の規定による裁判に対しては、不服を申し立てることができない。
(第三者異議の訴え)
第三十八条 強制執行の目的物について所有権その他目的物の譲渡又は引渡しを妨げる権利を有する第三者は、債権者に対し、その強制執行の不許を求めるために、第三者異議の訴えを提起することができる。
2 前項に規定する第三者は、同項の訴えに併合して、債務者に対する強制執行の目的物についての訴えを提起することができる。
3 第一項の訴えは、執行裁判所が管轄する。
4 前二条の規定は、第一項の訴えに係る執行停止の裁判について準用する。
(強制執行の停止)
第三十九条 強制執行は、次に掲げる文書の提出があったときは、停止しなければならない。
一 債務名義(執行証書を除く。)若しくは仮執行の宣言を取り消す旨又は強制執行を許さない旨を記載した執行力のある裁判の正本
二 債務名義に係る和解、認諾、調停又は労働審判の効力がないことを宣言する確定判決の正本
三 第二十二条第二号から第四号の二までに掲げる債務名義が訴えの取下げその他の事由により効力を失ったことを証する調書の正本その他の裁判所書記官の作成した文書
四 強制執行をしない旨又はその申立てを取り下げる旨を記載した裁判上の和解若しくは調停の調書の正本又は労働審判法(平成十六年法律第四十五号)第二十一条第四項の規定により裁判上の和解と同一の効力を有する労働審判の審判書若しくは同法第二十条第七項の調書の正本
五 強制執行を免れるための担保を立てたことを証する文書
六 強制執行の停止及び執行処分の取消しを命ずる旨を記載した裁判の正本
七 強制執行の一時の停止を命ずる旨を記載した裁判の正本
八 債権者が、債務名義の成立後に、弁済を受け、又は弁済の猶予を承諾した旨を記載した文書
2 前項第八号に掲げる文書のうち弁済を受けた旨を記載した文書の提出による強制執行の停止は、四週間に限るものとする。
3 第一項第八号に掲げる文書のうち弁済の猶予を承諾した旨を記載した文書の提出による強制執行の停止は、二回に限り、かつ、通じて六月を超えることができない。
(執行処分の取消し)
第四十条 前条第一項第一号から第六号までに掲げる文書が提出されたときは、執行裁判所又は執行官は、既にした執行処分をも取り消さなければならない。
2 第十二条の規定は、前項の規定により執行処分を取り消す場合については適用しない。
(債務者が死亡した場合の強制執行の続行)
第四十一条 強制執行は、その開始後に債務者が死亡した場合においても、続行することができる。
2 前項の場合において、債務者の相続人の存在又はその所在が明らかでないときは、執行裁判所は、申立てにより、相続財産又は相続人のために、特別代理人を選任することができる。
3 民事訴訟法第三十五条第二項及び第三項の規定は、前項の特別代理人について準用する。
(執行費用の負担)
第四十二条 強制執行の費用で必要なもの(以下「執行費用」という。)は、債務者の負担とする。
2 金銭の支払を目的とする債権についての強制執行にあっては、執行費用は、その執行手続において、債務名義を要しないで、同時に、取り立てることができる。
3 強制執行の基本となる債務名義(執行証書を除く。)を取り消す旨の裁判又は債務名義に係る和解、認諾、調停若しくは労働審判の効力がないことを宣言する判決が確定したときは、債権者は、支払を受けた執行費用に相当する金銭を債務者に返還しなければならない。
4 第一項の規定により債務者が負担すべき執行費用で第二項の規定により取り立てられたもの以外のもの及び前項の規定により債権者が返還すべき金銭の額は、申立てにより、執行裁判所の裁判所書記官が定める。
5 前項の申立てについての裁判所書記官の処分に対しては、その告知を受けた日から一週間の不変期間内に、執行裁判所に異議を申し立てることができる。
6 執行裁判所は、第四項の規定による裁判所書記官の処分に対する異議の申立てを理由があると認める場合において、同項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定めるべきときは、自らその額を定めなければならない。
7 第五項の規定による異議の申立てについての決定に対しては、執行抗告をすることができる。
8 第四項の規定による裁判所書記官の処分は、確定しなければその効力を生じない。
9 民事訴訟法第七十四条第一項の規定は、第四項の規定による裁判所書記官の処分について準用する。この場合においては、第五項、第七項及び前項並びに同条第三項の規定を準用する。
第二節 金銭の支払を目的とする債権についての強制執行
第一款 不動産に対する強制執行
第一目 通則
(不動産執行の方法)
第四十三条 不動産(登記することができない土地の定着物を除く。以下この節において同じ。)に対する強制執行(以下「不動産執行」という。)は、強制競売又は強制管理の方法により行う。これらの方法は、併用することができる。
2 金銭の支払を目的とする債権についての強制執行については、不動産の共有持分、登記された地上権及び永小作権並びにこれらの権利の共有持分は、不動産とみなす。
(執行裁判所)
第四十四条 不動産執行については、その所在地(前条第二項の規定により不動産とみなされるものにあっては、その登記をすべき地)を管轄する地方裁判所が、執行裁判所として管轄する。
2 建物が数個の地方裁判所の管轄区域にまたがつて存在する場合には、その建物に対する強制執行については建物の存する土地の所在地を管轄する各地方裁判所が、その土地に対する強制執行については土地の所在地を管轄する地方裁判所又は建物に対する強制執行の申立てを受けた地方裁判所が、執行裁判所として管轄する。
3 前項の場合において、執行裁判所は、必要があると認めるときは、事件を他の管轄裁判所に移送することができる。
4 前項の規定による決定に対しては、不服を申し立てることができない。
第二目 強制競売
(開始決定等)
第四十五条 執行裁判所は、強制競売の手続を開始するには、強制競売の開始決定をし、その開始決定において、債権者のために不動産を差し押さえる旨を宣言しなければならない。
2 前項の開始決定は、債務者に送達しなければならない。
3 強制競売の申立てを却下する裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
(差押えの効力)
第四十六条 差押えの効力は、強制競売の開始決定が債務者に送達された時に生ずる。ただし、差押えの登記がその開始決定の送達前にされたときは、登記がされた時に生ずる。
2 差押えは、債務者が通常の用法に従って不動産を使用し、又は収益することを妨げない。
(二重開始決定)
第四十七条 強制競売又は担保権の実行としての競売(以下この節において「競売」という。)の開始決定がされた不動産について強制競売の申立てがあったときは、執行裁判所は、更に強制競売の開始決定をするものとする。
2 先の開始決定に係る強制競売若しくは競売の申立てが取り下げられたとき、又は先の開始決定に係る強制競売若しくは競売の手続が取り消されたときは、執行裁判所は、後の強制競売の開始決定に基づいて手続を続行しなければならない。
3 前項の場合において、後の強制競売の開始決定が配当要求の終期後の申立てに係るものであるときは、裁判所書記官は、新たに配当要求の終期を定めなければならない。この場合において、既に第五十条第一項(第百八十八条において準用する場合を含む。)の届出をした者に対しては、第四十九条第二項の規定による催告は、要しない。
4 前項の規定による裁判所書記官の処分に対しては、執行裁判所に異議を申し立てることができる。
5 第十条第六項前段及び第九項の規定は、前項の規定による異議の申立てがあった場合について準用する。
6 先の開始決定に係る強制競売又は競売の手続が停止されたときは、執行裁判所は、申立てにより、後の強制競売の開始決定(配当要求の終期までにされた申立てに係るものに限る。)に基づいて手続を続行する旨の裁判をすることができる。ただし、先の開始決定に係る強制競売又は競売の手続が取り消されたとすれば、第六十二条第一項第二号に掲げる事項について変更が生ずるときは、この限りでない。
7 前項の申立てを却下する決定に対しては、執行抗告をすることができる。
(差押えの登記の嘱託等)
第四十八条 強制競売の開始決定がされたときは、裁判所書記官は、直ちに、その開始決定に係る差押えの登記を嘱託しなければならない。
2 登記官は、前項の規定による嘱託に基づいて差押えの登記をしたときは、その登記事項証明書を執行裁判所に送付しなければならない。
(開始決定及び配当要求の終期の公告等)
第四十九条 強制競売の開始決定に係る差押えの効力が生じた場合(その開始決定前に強制競売又は競売の開始決定がある場合を除く。)においては、裁判所書記官は、物件明細書の作成までの手続に要する期間を考慮して、配当要求の終期を定めなければならない。
2 裁判所書記官は、配当要求の終期を定めたときは、開始決定がされた旨及び配当要求の終期を公告し、かつ、次に掲げるものに対し、債権(利息その他の附帯の債権を含む。)の存否並びにその原因及び額を配当要求の終期までに執行裁判所に届け出るべき旨を催告しなければならない。
一 第八十七条第一項第三号に掲げる債権者
二 第八十七条第一項第四号に掲げる債権者(抵当証券の所持人にあっては、知れている所持人に限る。)
三 租税その他の公課を所管する官庁又は公署
3 裁判所書記官は、特に必要があると認めるときは、配当要求の終期を延期することができる。
4 裁判所書記官は、前項の規定により配当要求の終期を延期したときは、延期後の終期を公告しなければならない。
5 第一項又は第三項の規定による裁判所書記官の処分に対しては、執行裁判所に異議を申し立てることができる。
6 第十条第六項前段及び第九項の規定は、前項の規定による異議の申立てがあった場合について準用する。
(催告を受けた者の債権の届出義務)
第五十条 前条第二項の規定による催告を受けた同項第一号又は第二号に掲げる者は、配当要求の終期までに、その催告に係る事項について届出をしなければならない。
2 前項の届出をした者は、その届出に係る債権の元本の額に変更があったときは、その旨の届出をしなければならない。
3 前二項の規定により届出をすべき者は、故意又は過失により、その届出をしなかったとき、又は不実の届出をしたときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。
(配当要求)
第五十一条 第二十五条の規定により強制執行を実施することができる債務名義の正本(以下「執行力のある債務名義の正本」という。)を有する債権者、強制競売の開始決定に係る差押えの登記後に登記された仮差押債権者及び第百八十一条第一項各号に掲げる文書により一般の先取特権を有することを証明した債権者は、配当要求をすることができる。
2 配当要求を却下する裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
(配当要求の終期の変更)
第五十二条 配当要求の終期から、三月以内に売却許可決定がされないとき、又は三月以内にされた売却許可決定が取り消され、若しくは効力を失ったときは、配当要求の終期は、その終期から三月を経過した日に変更されたものとみなす。ただし、配当要求の終期から三月以内にされた売却許可決定が効力を失った場合において、第六十七条の規定による次順位買受けの申出について売却許可決定がされたとき(その決定が取り消され、又は効力を失ったときを除く。)は、この限りでない。
(不動産の滅失等による強制競売の手続の取消し)
第五十三条 不動産の滅失その他売却による不動産の移転を妨げる事情が明らかとなったときは、執行裁判所は、強制競売の手続を取り消さなければならない。
(差押えの登記の抹まっ消の嘱託)
第五十四条 強制競売の申立てが取り下げられたとき、又は強制競売の手続を取り消す決定が効力を生じたときは、裁判所書記官は、その開始決定に係る差押えの登記の抹まっ消を嘱託しなければならない。
2 前項の規定による嘱託に要する登録免許税その他の費用は、その取下げ又は取消決定に係る差押債権者の負担とする。
(売却のための保全処分等)
第五十五条 執行裁判所は、債務者又は不動産の占有者が価格減少行為(不動産の価格を減少させ、又は減少させるおそれがある行為をいう。以下この項において同じ。)をするときは、差押債権者(配当要求の終期後に強制競売又は競売の申立てをした差押債権者を除く。)の申立てにより、買受人が代金を納付するまでの間、次に掲げる保全処分又は公示保全処分(執行官に、当該保全処分の内容を、不動産の所在する場所に公示書その他の標識を掲示する方法により公示させることを内容とする保全処分をいう。以下同じ。)を命ずることができる。ただし、当該価格減少行為による不動産の価格の減少又はそのおそれの程度が軽微であるときは、この限りでない。
一 当該価格減少行為をする者に対し、当該価格減少行為を禁止し、又は一定の行為をすることを命ずる保全処分(執行裁判所が必要があると認めるときは、公示保全処分を含む。)
二 次に掲げる事項を内容とする保全処分(執行裁判所が必要があると認めるときは、公示保全処分を含む。)
イ 当該価格減少行為をする者に対し、不動産に対する占有を解いて執行官に引き渡すことを命ずること。
ロ 執行官に不動産の保管をさせること。
三 次に掲げる事項を内容とする保全処分及び公示保全処分
イ 前号イ及びロに掲げる事項
ロ 前号イに規定する者に対し、不動産の占有の移転を禁止することを命じ、及び当該不動産の使用を許すこと。
2 前項第二号又は第三号に掲げる保全処分は、次に掲げる場合のいずれかに該当するときでなければ、命ずることができない。
一 前項の債務者が不動産を占有する場合
二 前項の不動産の占有者の占有の権原が差押債権者、仮差押債権者又は第五十九条第一項の規定により消滅する権利を有する者に対抗することができない場合
3 執行裁判所は、債務者以外の占有者に対し第一項の規定による決定をする場合において、必要があると認めるときは、その者を審尋しなければならない。
4 執行裁判所が第一項の規定による決定をするときは、申立人に担保を立てさせることができる。ただし、同項第二号に掲げる保全処分については、申立人に担保を立てさせなければ、同項の規定による決定をしてはならない。
5 事情の変更があったときは、執行裁判所は、申立てにより、第一項の規定による決定を取り消し、又は変更することができる。
6 第一項又は前項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
7 第五項の規定による決定は、確定しなければその効力を生じない。
8 第一項第二号又は第三号に掲げる保全処分又は公示保全処分を命ずる決定は、申立人に告知された日から二週間を経過したときは、執行してはならない。
9 前項に規定する決定は、相手方に送達される前であっても、執行することができる。
10 第一項の申立て又は同項(第一号を除く。)の規定による決定の執行に要した費用(不動産の保管のために要した費用を含む。)は、その不動産に対する強制競売の手続においては、共益費用とする。
(相手方を特定しないで発する売却のための保全処分等)
第五十五条の二 前条第一項第二号又は第三号に掲げる保全処分又は公示保全処分を命ずる決定については、当該決定の執行前に相手方を特定することを困難とする特別の事情があるときは、執行裁判所は、相手方を特定しないで、これを発することができる。
2 前項の規定による決定の執行は、不動産の占有を解く際にその占有者を特定することができない場合は、することができない。
3 第一項の規定による決定の執行がされたときは、当該執行によって不動産の占有を解かれた者が、当該決定の相手方となる。
4 第一項の規定による決定は、前条第八項の期間内にその執行がされなかったときは、相手方に対して送達することを要しない。この場合において、第十五条第二項において準用する民事訴訟法第七十九条第一項の規定による担保の取消しの決定で前条第四項の規定により立てさせた担保に係るものは、執行裁判所が相当と認める方法で申立人に告知することによって、その効力を生ずる。
(地代等の代払の許可)
第五十六条 建物に対し強制競売の開始決定がされた場合において、その建物の所有を目的とする地上権又は賃借権について債務者が地代又は借賃を支払わないときは、執行裁判所は、申立てにより、差押債権者(配当要求の終期後に強制競売又は競売の申立てをした差押債権者を除く。)がその不払の地代又は借賃を債務者に代わって弁済することを許可することができる。
2 第五十五条第十項の規定は、前項の申立てに要した費用及び同項の許可を得て支払った地代又は借賃について準用する。
(現況調査)
第五十七条 執行裁判所は、執行官に対し、不動産の形状、占有関係その他の現況について調査を命じなければならない。
2 執行官は、前項の調査をするに際し、不動産に立ち入り、又は債務者若しくはその不動産を占有する第三者に対し、質問をし、若しくは文書の提示を求めることができる。
3 執行官は、前項の規定により不動産に立ち入る場合において、必要があるときは、閉鎖した戸を開くため必要な処分をすることができる。
4 執行官は、第一項の調査のため必要がある場合には、市町村(特別区の存する区域にあっては、都)に対し、不動産(不動産が土地である場合にはその上にある建物を、不動産が建物である場合にはその敷地を含む。)に対して課される固定資産税に関して保有する図面その他の資料の写しの交付を請求することができる。
5 執行官は、前項に規定する場合には、電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付を行う公益事業を営む法人に対し、必要な事項の報告を求めることができる。
(評価)
第五十八条 執行裁判所は、評価人を選任し、不動産の評価を命じなければならない。
2 評価人は、近傍同種の不動産の取引価格、不動産から生ずべき収益、不動産の原価その他の不動産の価格形成上の事情を適切に勘案して、遅滞なく、評価をしなければならない。この場合において、評価人は、強制競売の手続において不動産の売却を実施するための評価であることを考慮しなければならない。
3 評価人は、第六条第二項の規定により執行官に対し援助を求めるには、執行裁判所の許可を受けなければならない。
4 第十八条第二項並びに前条第二項、第四項及び第五項の規定は、評価人が評価をする場合について準用する。
(売却に伴う権利の消滅等)
第五十九条 不動産の上に存する先取特権、使用及び収益をしない旨の定めのある質権並びに抵当権は、売却により消滅する。
2 前項の規定により消滅する権利を有する者、差押債権者又は仮差押債権者に対抗することができない不動産に係る権利の取得は、売却によりその効力を失う。
3 不動産に係る差押え、仮差押えの執行及び第一項の規定により消滅する権利を有する者、差押債権者又は仮差押債権者に対抗することができない仮処分の執行は、売却によりその効力を失う。
4 不動産の上に存する留置権並びに使用及び収益をしない旨の定めのない質権で第二項の規定の適用がないものについては、買受人は、これらによって担保される債権を弁済する責めに任ずる。
5 利害関係を有する者が次条第一項に規定する売却基準価額が定められる時までに第一項、第二項又は前項の規定と異なる合意をした旨の届出をしたときは、売却による不動産の上の権利の変動は、その合意に従う。
(売却基準価額の決定等)
第六十条 執行裁判所は、評価人の評価に基づいて、不動産の売却の額の基準となるべき価額(以下「売却基準価額」という。)を定めなければならない。
2 執行裁判所は、必要があると認めるときは、売却基準価額を変更することができる。
3 買受けの申出の額は、売却基準価額からその十分の二に相当する額を控除した価額(以下「買受可能価額」という。)以上でなければならない。
(一括売却)
第六十一条 執行裁判所は、相互の利用上不動産を他の不動産(差押債権者又は債務者を異にするものを含む。)と一括して同一の買受人に買い受けさせることが相当であると認めるときは、これらの不動産を一括して売却することを定めることができる。ただし、一個の申立てにより強制競売の開始決定がされた数個の不動産のうち、あるものの買受可能価額で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる見込みがある場合には、債務者の同意があるときに限る。
(物件明細書)
第六十二条 裁判所書記官は、次に掲げる事項を記載した物件明細書を作成しなければならない。
一 不動産の表示
二 不動産に係る権利の取得及び仮処分の執行で売却によりその効力を失わないもの
三 売却により設定されたものとみなされる地上権の概要
2 裁判所書記官は、前項の物件明細書の写しを執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供し、又は不特定多数の者が当該物件明細書の内容の提供を受けることができるものとして最高裁判所規則で定める措置を講じなければならない。
3 前二項の規定による裁判所書記官の処分に対しては、執行裁判所に異議を申し立てることができる。
4 第十条第六項前段及び第九項の規定は、前項の規定による異議の申立てがあった場合について準用する。
(剰余を生ずる見込みのない場合等の措置)
第六十三条 執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、その旨を差押債権者(最初の強制競売の開始決定に係る差押債権者をいう。ただし、第四十七条第六項の規定により手続を続行する旨の裁判があったときは、その裁判を受けた差押債権者をいう。以下この条において同じ。)に通知しなければならない。
一 差押債権者の債権に優先する債権(以下この条において「優先債権」という。)がない場合において、不動産の買受可能価額が執行費用のうち共益費用であるもの(以下「手続費用」という。)の見込額を超えないとき。
二 優先債権がある場合において、不動産の買受可能価額が手続費用及び優先債権の見込額の合計額に満たないとき。
2 差押債権者が、前項の規定による通知を受けた日から一週間以内に、優先債権がない場合にあっては手続費用の見込額を超える額、優先債権がある場合にあっては手続費用及び優先債権の見込額の合計額以上の額(以下この項において「申出額」という。)を定めて、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める申出及び保証の提供をしないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。ただし、差押債権者が、その期間内に、前項各号のいずれにも該当しないことを証明したとき、又は同項第二号に該当する場合であって不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超える場合において、不動産の売却について優先債権を有する者(買受可能価額で自己の優先債権の全部の弁済を受けることができる見込みがある者を除く。)の同意を得たことを証明したときは、この限りでない。
一 差押債権者が不動産の買受人になることができる場合 申出額に達する買受けの申出がないときは、自ら申出額で不動産を買い受ける旨の申出及び申出額に相当する保証の提供
二 差押債権者が不動産の買受人になることができない場合 買受けの申出の額が申出額に達しないときは、申出額と買受けの申出の額との差額を負担する旨の申出及び申出額と買受可能価額との差額に相当する保証の提供
3 前項第二号の申出及び保証の提供があった場合において、買受可能価額以上の額の買受けの申出がないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。
4 第二項の保証の提供は、執行裁判所に対し、最高裁判所規則で定める方法により行わなければならない。
(売却の方法及び公告)
第六十四条 不動産の売却は、裁判所書記官の定める売却の方法により行う。
2 不動産の売却の方法は、入札又は競り売りのほか、最高裁判所規則で定める。
3 裁判所書記官は、入札又は競り売りの方法により売却をするときは、売却の日時及び場所を定め、執行官に売却を実施させなければならない。
4 前項の場合においては、第二十条において準用する民事訴訟法第九十三条第一項の規定にかかわらず、売却決定期日は、裁判所書記官が、売却を実施させる旨の処分と同時に指定する。
5 第三項の場合においては、裁判所書記官は、売却すべき不動産の表示、売却基準価額並びに売却の日時及び場所を公告しなければならない。
6 第一項、第三項又は第四項の規定による裁判所書記官の処分に対しては、執行裁判所に異議を申し立てることができる。
7 第十条第六項前段及び第九項の規定は、前項の規定による異議の申立てがあった場合について準用する。
(内覧)
第六十四条の二 執行裁判所は、差押債権者(配当要求の終期後に強制競売又は競売の申立てをした差押債権者を除く。)の申立てがあるときは、執行官に対し、内覧(不動産の買受けを希望する者をこれに立ち入らせて見学させることをいう。以下この条において同じ。)の実施を命じなければならない。ただし、当該不動産の占有者の占有の権原が差押債権者、仮差押債権者及び第五十九条第一項の規定により消滅する権利を有する者に対抗することができる場合で当該占有者が同意しないときは、この限りでない。
2 前項の申立ては、最高裁判所規則で定めるところにより、売却を実施させる旨の裁判所書記官の処分の時までにしなければならない。
3 第一項の命令を受けた執行官は、売却の実施の時までに、最高裁判所規則で定めるところにより内覧への参加の申出をした者(不動産を買い受ける資格又は能力を有しない者その他最高裁判所規則で定める事由がある者を除く。第五項及び第六項において「内覧参加者」という。)のために、内覧を実施しなければならない。
4 執行裁判所は、内覧の円滑な実施が困難であることが明らかであるときは、第一項の命令を取り消すことができる。
5 執行官は、内覧の実施に際し、自ら不動産に立ち入り、かつ、内覧参加者を不動産に立ち入らせることができる。
6 執行官は、内覧参加者であって内覧の円滑な実施を妨げる行為をするものに対し、不動産に立ち入ることを制限し、又は不動産から退去させることができる。
(売却の場所の秩序維持)
第六十五条 執行官は、次に掲げる者に対し、売却の場所に入ることを制限し、若しくはその場所から退場させ、又は買受けの申出をさせないことができる。
一 他の者の買受けの申出を妨げ、若しくは不当に価額を引き下げる目的をもって連合する等売却の適正な実施を妨げる行為をし、又はその行為をさせた者
二 他の民事執行の手続の売却不許可決定において前号に該当する者と認定され、その売却不許可決定の確定の日から二年を経過しない者
三 民事執行の手続における売却に関し刑法(明治四十年法律第四十五号)第九十五条から第九十六条の五まで、第百九十七条から第百九十七条の四まで若しくは第百九十八条、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年法律第百三十六号)第三条第一項第一号から第四号まで若しくは第二項(同条第一項第一号から第四号までに係る部分に限る。)又は公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律(平成十二年法律第百三十号)第一条第一項、第二条第一項若しくは第四条の規定により刑に処せられ、その裁判の確定の日から二年を経過しない者
(暴力団員等に該当しないこと等の陳述)
第六十五条の二 不動産の買受けの申出は、次の各号のいずれにも該当しない旨を買受けの申出をしようとする者(その者に法定代理人がある場合にあっては当該法定代理人、その者が法人である場合にあってはその代表者)が最高裁判所規則で定めるところにより陳述しなければ、することができない。
一 買受けの申出をしようとする者(その者が法人である場合にあっては、その役員)が暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第六号に規定する暴力団員(以下この号において「暴力団員」という。)又は暴力団員でなくなった日から五年を経過しない者(以下この目において「暴力団員等」という。)であること。
二 自己の計算において当該買受けの申出をさせようとする者(その者が法人である場合にあっては、その役員)が暴力団員等であること。
(買受けの申出の保証)
第六十六条 不動産の買受けの申出をしようとする者は、最高裁判所規則で定めるところにより、執行裁判所が定める額及び方法による保証を提供しなければならない。
(次順位買受けの申出)
第六十七条 最高価買受申出人に次いで高額の買受けの申出をした者は、その買受けの申出の額が、買受可能価額以上で、かつ、最高価買受申出人の申出の額から買受けの申出の保証の額を控除した額以上である場合に限り、売却の実施の終了までに、執行官に対し、最高価買受申出人に係る売却許可決定が第八十条第一項の規定により効力を失うときは、自己の買受けの申出について売却を許可すべき旨の申出(以下「次順位買受けの申出」という。)をすることができる。
(債務者の買受けの申出の禁止)
第六十八条 債務者は、買受けの申出をすることができない。
(買受けの申出をした差押債権者のための保全処分等)
第六十八条の二 執行裁判所は、裁判所書記官が入札又は競り売りの方法により売却を実施させても買受けの申出がなかった場合において、債務者又は不動産の占有者が不動産の売却を困難にする行為をし、又はその行為をするおそれがあるときは、差押債権者(配当要求の終期後に強制競売又は競売の申立てをした差押債権者を除く。次項において同じ。)の申立てにより、買受人が代金を納付するまでの間、担保を立てさせて、次に掲げる事項を内容とする保全処分(執行裁判所が必要があると認めるときは、公示保全処分を含む。)を命ずることができる。
一 債務者又は不動産の占有者に対し、不動産に対する占有を解いて執行官又は申立人に引き渡すことを命ずること。
二 執行官又は申立人に不動産の保管をさせること。
2 差押債権者は、前項の申立てをするには、買受可能価額以上の額(以下この項において「申出額」という。)を定めて、次の入札又は競り売りの方法による売却の実施において申出額に達する買受けの申出がないときは自ら申出額で不動産を買い受ける旨の申出をし、かつ、申出額に相当する保証の提供をしなければならない。
3 事情の変更があったときは、執行裁判所は、申立てにより又は職権で、第一項の規定による決定を取り消し、又は変更することができる。
4 第五十五条第二項の規定は第一項に規定する保全処分について、同条第三項の規定は第一項の規定による決定について、同条第六項の規定は第一項の申立てについての裁判、前項の規定による裁判又は同項の申立てを却下する裁判について、同条第七項の規定は前項の規定による決定について、同条第八項及び第九項並びに第五十五条の二の規定は第一項に規定する保全処分を命ずる決定について、第五十五条第十項の規定は第一項の申立て又は同項の規定による決定の執行に要した費用について、第六十三条第四項の規定は第二項の保証の提供について準用する。
(売却の見込みのない場合の措置)
第六十八条の三 執行裁判所は、裁判所書記官が入札又は競り売りの方法による売却を三回実施させても買受けの申出がなかった場合において、不動産の形状、用途、法令による利用の規制その他の事情を考慮して、更に売却を実施させても売却の見込みがないと認めるときは、強制競売の手続を停止することができる。この場合においては、差押債権者に対し、その旨を通知しなければならない。
2 差押債権者が、前項の規定による通知を受けた日から三月以内に、執行裁判所に対し、買受けの申出をしようとする者があることを理由として、売却を実施させるべき旨を申し出たときは、裁判所書記官は、第六十四条の定めるところにより売却を実施させなければならない。
3 差押債権者が前項の期間内に同項の規定による売却実施の申出をしないときは、執行裁判所は、強制競売の手続を取り消すことができる。同項の規定により裁判所書記官が売却を実施させた場合において買受けの申出がなかったときも、同様とする。
(調査の嘱託)
第六十八条の四 執行裁判所は、最高価買受申出人(その者が法人である場合にあっては、その役員。以下この項において同じ。)が暴力団員等に該当するか否かについて、必要な調査を執行裁判所の所在地を管轄する都道府県警察に嘱託しなければならない。ただし、最高価買受申出人が暴力団員等に該当しないと認めるべき事情があるものとして最高裁判所規則で定める場合は、この限りでない。
2 執行裁判所は、自己の計算において最高価買受申出人に買受けの申出をさせた者があると認める場合には、当該買受けの申出をさせた者(その者が法人である場合にあっては、その役員。以下この項において同じ。)が暴力団員等に該当するか否かについて、必要な調査を執行裁判所の所在地を管轄する都道府県警察に嘱託しなければならない。ただし、買受けの申出をさせた者が暴力団員等に該当しないと認めるべき事情があるものとして最高裁判所規則で定める場合は、この限りでない。
(売却決定期日)
第六十九条 執行裁判所は、売却決定期日を開き、売却の許可又は不許可を言い渡さなければならない。
(売却の許可又は不許可に関する意見の陳述)
第七十条 不動産の売却の許可又は不許可に関し利害関係を有する者は、次条各号に掲げる事由で自己の権利に影響のあるものについて、売却決定期日において意見を陳述することができる。
(売却不許可事由)
第七十一条 執行裁判所は、次に掲げる事由があると認めるときは、売却不許可決定をしなければならない。
一 強制競売の手続の開始又は続行をすべきでないこと。
二 最高価買受申出人が不動産を買い受ける資格若しくは能力を有しないこと又はその代理人がその権限を有しないこと。
三 最高価買受申出人が不動産を買い受ける資格を有しない者の計算において買受けの申出をした者であること。
四 最高価買受申出人、その代理人又は自己の計算において最高価買受申出人に買受けの申出をさせた者が次のいずれかに該当すること。
イ その強制競売の手続において第六十五条第一号に規定する行為をした者
ロ その強制競売の手続において、代金の納付をしなかった者又は自己の計算においてその者に買受けの申出をさせたことがある者
ハ 第六十五条第二号又は第三号に掲げる者
五 最高価買受申出人又は自己の計算において最高価買受申出人に買受けの申出をさせた者が次のいずれかに該当すること。
イ 暴力団員等(買受けの申出がされた時に暴力団員等であった者を含む。)
ロ 法人でその役員のうちに暴力団員等に該当する者があるもの(買受けの申出がされた時にその役員のうちに暴力団員等に該当する者があったものを含む。)
六 第七十五条第一項の規定による売却の不許可の申出があること。
七 売却基準価額若しくは一括売却の決定、物件明細書の作成又はこれらの手続に重大な誤りがあること。
八 売却の手続に重大な誤りがあること。
(売却の実施の終了後に執行停止の裁判等の提出があった場合の措置)
第七十二条 売却の実施の終了から売却決定期日の終了までの間に第三十九条第一項第七号に掲げる文書の提出があった場合には、執行裁判所は、他の事由により売却不許可決定をするときを除き、売却決定期日を開くことができない。この場合においては、最高価買受申出人又は次順位買受申出人は、執行裁判所に対し、買受けの申出を取り消すことができる。
2 売却決定期日の終了後に前項に規定する文書の提出があった場合には、その期日にされた売却許可決定が取り消され、若しくは効力を失ったとき、又はその期日にされた売却不許可決定が確定したときに限り、第三十九条の規定を適用する。
3 売却の実施の終了後に第三十九条第一項第八号に掲げる文書の提出があった場合には、その売却に係る売却許可決定が取り消され、若しくは効力を失ったとき、又はその売却に係る売却不許可決定が確定したときに限り、同条の規定を適用する。
(超過売却となる場合の措置)
第七十三条 数個の不動産を売却した場合において、あるものの買受けの申出の額で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる見込みがあるときは、執行裁判所は、他の不動産についての売却許可決定を留保しなければならない。
2 前項の場合において、その買受けの申出の額で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる見込みがある不動産が数個あるときは、執行裁判所は、売却の許可をすべき不動産について、あらかじめ、債務者の意見を聴かなければならない。
3 第一項の規定により売却許可決定が留保された不動産の最高価買受申出人又は次順位買受申出人は、執行裁判所に対し、買受けの申出を取り消すことができる。
4 売却許可決定のあった不動産について代金が納付されたときは、執行裁判所は、前項の不動産に係る強制競売の手続を取り消さなければならない。
(売却の許可又は不許可の決定に対する執行抗告)
第七十四条 売却の許可又は不許可の決定に対しては、その決定により自己の権利が害されることを主張するときに限り、執行抗告をすることができる。
2 売却許可決定に対する執行抗告は、第七十一条各号に掲げる事由があること又は売却許可決定の手続に重大な誤りがあることを理由としなければならない。
3 民事訴訟法第三百三十八条第一項各号に掲げる事由は、前二項の規定にかかわらず、売却の許可又は不許可の決定に対する執行抗告の理由とすることができる。
4 抗告裁判所は、必要があると認めるときは、抗告人の相手方を定めることができる。
5 売却の許可又は不許可の決定は、確定しなければその効力を生じない。
(不動産が損傷した場合の売却の不許可の申出等)
第七十五条 最高価買受申出人又は買受人は、買受けの申出をした後天災その他自己の責めに帰することができない事由により不動産が損傷した場合には、執行裁判所に対し、売却許可決定前にあっては売却の不許可の申出をし、売却許可決定後にあっては代金を納付する時までにその決定の取消しの申立てをすることができる。ただし、不動産の損傷が軽微であるときは、この限りでない。
2 前項の規定による売却許可決定の取消しの申立てについての決定に対しては、執行抗告をすることができる。
3 前項に規定する申立てにより売却許可決定を取り消す決定は、確定しなければその効力を生じない。
(買受けの申出後の強制競売の申立ての取下げ等)
第七十六条 買受けの申出があった後に強制競売の申立てを取り下げるには、最高価買受申出人又は買受人及び次順位買受申出人の同意を得なければならない。ただし、他に差押債権者(配当要求の終期後に強制競売又は競売の申立てをした差押債権者を除く。)がある場合において、取下げにより第六十二条第一項第二号に掲げる事項について変更が生じないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、買受けの申出があった後に第三十九条第一項第四号又は第五号に掲げる文書を提出する場合について準用する。
(最高価買受申出人又は買受人のための保全処分等)
第七十七条 執行裁判所は、債務者又は不動産の占有者が、価格減少行為等(不動産の価格を減少させ、又は不動産の引渡しを困難にする行為をいう。以下この項において同じ。)をし、又は価格減少行為等をするおそれがあるときは、最高価買受申出人又は買受人の申立てにより、引渡命令の執行までの間、その買受けの申出の額(金銭により第六十六条の保証を提供した場合にあっては、当該保証の額を控除した額)に相当する金銭を納付させ、又は代金を納付させて、次に掲げる保全処分又は公示保全処分を命ずることができる。
一 債務者又は不動産の占有者に対し、価格減少行為等を禁止し、又は一定の行為をすることを命ずる保全処分(執行裁判所が必要があると認めるときは、公示保全処分を含む。)
二 次に掲げる事項を内容とする保全処分(執行裁判所が必要があると認めるときは、公示保全処分を含む。)
イ 当該価格減少行為等をし、又はそのおそれがある者に対し、不動産に対する占有を解いて執行官に引き渡すことを命ずること。
ロ 執行官に不動産の保管をさせること。
三 次に掲げる事項を内容とする保全処分及び公示保全処分
イ 前号イ及びロに掲げる事項
ロ 前号イに規定する者に対し、不動産の占有の移転を禁止することを命じ、及び不動産の使用を許すこと。
2 第五十五条第二項(第一号に係る部分に限る。)の規定は前項第二号又は第三号に掲げる保全処分について、同条第二項(第二号に係る部分に限る。)の規定は前項に掲げる保全処分について、同条第三項、第四項本文及び第五項の規定は前項の規定による決定について、同条第六項の規定は前項の申立て又はこの項において準用する同条第五項の申立てについての裁判について、同条第七項の規定はこの項において準用する同条第五項の規定による決定について、同条第八項及び第九項並びに第五十五条の二の規定は前項第二号又は第三号に掲げる保全処分を命ずる決定について準用する。
(代金の納付)
第七十八条 売却許可決定が確定したときは、買受人は、裁判所書記官の定める期限までに代金を執行裁判所に納付しなければならない。
2 買受人が買受けの申出の保証として提供した金銭及び前条第一項の規定により納付した金銭は、代金に充てる。
3 買受人が第六十三条第二項第一号又は第六十八条の二第二項の保証を金銭の納付以外の方法で提供しているときは、執行裁判所は、最高裁判所規則で定めるところによりこれを換価し、その換価代金から換価に要した費用を控除したものを代金に充てる。この場合において、換価に要した費用は、買受人の負担とする。
4 買受人は、売却代金から配当又は弁済を受けるべき債権者であるときは、売却許可決定が確定するまでに執行裁判所に申し出て、配当又は弁済を受けるべき額を差し引いて代金を配当期日又は弁済金の交付の日に納付することができる。ただし、配当期日において、買受人の受けるべき配当の額について異議の申出があったときは、買受人は、当該配当期日から一週間以内に、異議に係る部分に相当する金銭を納付しなければならない。
5 裁判所書記官は、特に必要があると認めるときは、第一項の期限を変更することができる。
6 第一項又は前項の規定による裁判所書記官の処分に対しては、執行裁判所に異議を申し立てることができる。
7 第十条第六項前段及び第九項の規定は、前項の規定による異議の申立てがあった場合について準用する。
(不動産の取得の時期)
第七十九条 買受人は、代金を納付した時に不動産を取得する。
(代金不納付の効果)
第八十条 買受人が代金を納付しないときは、売却許可決定は、その効力を失う。この場合においては、買受人は、第六十六条の規定により提供した保証の返還を請求することができない。
2 前項前段の場合において、次順位買受けの申出があるときは、執行裁判所は、その申出について売却の許可又は不許可の決定をしなければならない。
(法定地上権)
第八十一条 土地及びその上にある建物が債務者の所有に属する場合において、その土地又は建物の差押えがあり、その売却により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合においては、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
(代金納付による登記の嘱託)
第八十二条 買受人が代金を納付したときは、裁判所書記官は、次に掲げる登記及び登記の抹まっ消を嘱託しなければならない。
一 買受人の取得した権利の移転の登記
二 売却により消滅した権利又は売却により効力を失った権利の取得若しくは仮処分に係る登記の抹まっ消
三 差押え又は仮差押えの登記の抹まっ消
2 買受人及び買受人から不動産の上に抵当権の設定を受けようとする者が、最高裁判所規則で定めるところにより、代金の納付の時までに申出をしたときは、前項の規定による嘱託は、登記の申請の代理を業とすることができる者で申出人の指定するものに嘱託情報を提供して登記所に提供させる方法によってしなければならない。この場合において、申出人の指定する者は、遅滞なく、その嘱託情報を登記所に提供しなければならない。
3 第一項の規定による嘱託をするには、その嘱託情報と併せて売却許可決定があったことを証する情報を提供しなければならない。
4 第一項の規定による嘱託に要する登録免許税その他の費用は、買受人の負担とする。
(引渡命令)
第八十三条 執行裁判所は、代金を納付した買受人の申立てにより、債務者又は不動産の占有者に対し、不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができる。ただし、事件の記録上買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者に対しては、この限りでない。
2 買受人は、代金を納付した日から六月(買受けの時に民法第三百九十五条第一項に規定する抵当建物使用者が占有していた建物の買受人にあっては、九月)を経過したときは、前項の申立てをすることができない。
3 執行裁判所は、債務者以外の占有者に対し第一項の規定による決定をする場合には、その者を審尋しなければならない。ただし、事件の記録上その者が買受人に対抗することができる権原により占有しているものでないことが明らかであるとき、又は既にその者を審尋しているときは、この限りでない。
4 第一項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
5 第一項の規定による決定は、確定しなければその効力を生じない。
(占有移転禁止の保全処分等の効力)
第八十三条の二 強制競売の手続において、第五十五条第一項第三号又は第七十七条第一項第三号に掲げる保全処分及び公示保全処分を命ずる決定の執行がされ、かつ、買受人の申立てにより当該決定の被申立人に対して引渡命令が発せられたときは、買受人は、当該引渡命令に基づき、次に掲げる者に対し、不動産の引渡しの強制執行をすることができる。
一 当該決定の執行がされたことを知って当該不動産を占有した者
二 当該決定の執行後に当該執行がされたことを知らないで当該決定の被申立人の占有を承継した者
2 前項の決定の執行後に同項の不動産を占有した者は、その執行がされたことを知って占有したものと推定する。
3 第一項の引渡命令について同項の決定の被申立人以外の者に対する執行文が付与されたときは、その者は、執行文の付与に対する異議の申立てにおいて、買受人に対抗することができる権原により不動産を占有していること、又は自己が同項各号のいずれにも該当しないことを理由とすることができる。
(売却代金の配当等の実施)
第八十四条 執行裁判所は、代金の納付があった場合には、次項に規定する場合を除き、配当表に基づいて配当を実施しなければならない。
2 債権者が一人である場合又は債権者が二人以上であって売却代金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる場合には、執行裁判所は、売却代金の交付計算書を作成して、債権者に弁済金を交付し、剰余金を債務者に交付する。
3 代金の納付後に第三十九条第一項第一号から第六号までに掲げる文書の提出があった場合において、他に売却代金の配当又は弁済金の交付(以下「配当等」という。)を受けるべき債権者があるときは、執行裁判所は、その債権者のために配当等を実施しなければならない。
4 代金の納付後に第三十九条第一項第七号又は第八号に掲げる文書の提出があった場合においても、執行裁判所は、配当等を実施しなければならない。
(配当表の作成)
第八十五条 執行裁判所は、配当期日において、第八十七条第一項各号に掲げる各債権者について、その債権の元本及び利息その他の附帯の債権の額、執行費用の額並びに配当の順位及び額を定める。ただし、配当の順位及び額については、配当期日においてすべての債権者間に合意が成立した場合は、この限りでない。
2 執行裁判所は、前項本文の規定により配当の順位及び額を定める場合には、民法、商法その他の法律の定めるところによらなければならない。
3 配当期日には、第一項に規定する債権者及び債務者を呼び出さなければならない。
4 執行裁判所は、配当期日において、第一項本文に規定する事項を定めるため必要があると認めるときは、出頭した債権者及び債務者を審尋し、かつ、即時に取り調べることができる書証の取調べをすることができる。
5 第一項の規定により同項本文に規定する事項(同項ただし書に規定する場合には、配当の順位及び額を除く。)が定められたときは、裁判所書記官は、配当期日において、配当表を作成しなければならない。
6 配当表には、売却代金の額及び第一項本文に規定する事項についての執行裁判所の定めの内容(同項ただし書に規定する場合にあっては、配当の順位及び額については、その合意の内容)を記載しなければならない。
7 第十六条第三項及び第四項の規定は、第一項に規定する債権者(同条第一項前段に規定する者を除く。)に対する呼出状の送達について準用する。
(売却代金)
第八十六条 売却代金は、次に掲げるものとする。
一 不動産の代金
二 第六十三条第二項第二号の規定により提供した保証のうち申出額から代金の額を控除した残額に相当するもの
三 第八十条第一項後段の規定により買受人が返還を請求することができない保証
2 第六十一条の規定により不動産が一括して売却された場合において、各不動産ごとに売却代金の額を定める必要があるときは、その額は、売却代金の総額を各不動産の売却基準価額に応じて案分して得た額とする。各不動産ごとの執行費用の負担についても、同様とする。
3 第七十八条第三項の規定は、第一項第二号又は第三号に規定する保証が金銭の納付以外の方法で提供されている場合の換価について準用する。
(配当等を受けるべき債権者の範囲)
第八十七条 売却代金の配当等を受けるべき債権者は、次に掲げる者とする。
一 差押債権者(配当要求の終期までに強制競売又は一般の先取特権の実行としての競売の申立てをした差押債権者に限る。)
二 配当要求の終期までに配当要求をした債権者
三 差押え(最初の強制競売の開始決定に係る差押えをいう。次号において同じ。)の登記前に登記された仮差押えの債権者
四 差押えの登記前に登記(民事保全法第五十三条第二項に規定する仮処分による仮登記を含む。)がされた先取特権(第一号又は第二号に掲げる債権者が有する一般の先取特権を除く。)、質権又は抵当権で売却により消滅するものを有する債権者(その抵当権に係る抵当証券の所持人を含む。)
2 前項第四号に掲げる債権者の権利が仮差押えの登記後に登記されたものである場合には、その債権者は、仮差押債権者が本案の訴訟において敗訴し、又は仮差押えがその効力を失ったときに限り、配当等を受けることができる。
3 差押えに係る強制競売の手続が停止され、第四十七条第六項の規定による手続を続行する旨の裁判がある場合において、執行を停止された差押債権者がその停止に係る訴訟等において敗訴したときは、差押えの登記後続行の裁判に係る差押えの登記前に登記された第一項第四号に規定する権利を有する債権者は、配当等を受けることができる。
(期限付債権の配当等)
第八十八条 確定期限の到来していない債権は、配当等については、弁済期が到来したものとみなす。
2 前項の債権が無利息であるときは、配当等の日から期限までの配当等の日における法定利率による利息との合算額がその債権の額となるべき元本額をその債権の額とみなして、配当等の額を計算しなければならない。
(配当異議の申出)
第八十九条 配当表に記載された各債権者の債権又は配当の額について不服のある債権者及び債務者は、配当期日において、異議の申出(以下「配当異議の申出」という。)をすることができる。
2 執行裁判所は、配当異議の申出のない部分に限り、配当を実施しなければならない。
(配当異議の訴え等)
第九十条 配当異議の申出をした債権者及び執行力のある債務名義の正本を有しない債権者に対し配当異議の申出をした債務者は、配当異議の訴えを提起しなければならない。
2 前項の訴えは、執行裁判所が管轄する。
3 第一項の訴えは、原告が最初の口頭弁論期日に出頭しない場合には、その責めに帰することができない事由により出頭しないときを除き、却下しなければならない。
4 第一項の訴えの判決においては、配当表を変更し、又は新たな配当表の調製のために、配当表を取り消さなければならない。
5 執行力のある債務名義の正本を有する債権者に対し配当異議の申出をした債務者は、請求異議の訴え又は民事訴訟法第百十七条第一項の訴えを提起しなければならない。
6 配当異議の申出をした債権者又は債務者が、配当期日(知れていない抵当証券の所持人に対する配当異議の申出にあっては、その所持人を知った日)から一週間以内(買受人が第七十八条第四項ただし書の規定により金銭を納付すべき場合にあっては、二週間以内)に、執行裁判所に対し、第一項の訴えを提起したことの証明をしないとき、又は前項の訴えを提起したことの証明及びその訴えに係る執行停止の裁判の正本の提出をしないときは、配当異議の申出は、取り下げたものとみなす。
(配当等の額の供託)
第九十一条 配当等を受けるべき債権者の債権について次に掲げる事由があるときは、裁判所書記官は、その配当等の額に相当する金銭を供託しなければならない。
一 停止条件付又は不確定期限付であるとき。
二 仮差押債権者の債権であるとき。
三 第三十九条第一項第七号又は第百八十三条第一項第六号に掲げる文書が提出されているとき。
四 その債権に係る先取特権、質権又は抵当権(以下この項において「先取特権等」という。)の実行を一時禁止する裁判の正本が提出されているとき。
五 その債権に係る先取特権等につき仮登記又は民事保全法第五十三条第二項に規定する仮処分による仮登記がされたものであるとき。
六 仮差押え又は執行停止に係る差押えの登記後に登記された先取特権等があるため配当額が定まらないとき。
七 配当異議の訴えが提起されたとき。
2 裁判所書記官は、配当等の受領のために執行裁判所に出頭しなかった債権者(知れていない抵当証券の所持人を含む。)に対する配当等の額に相当する金銭を供託しなければならない。
(権利確定等に伴う配当等の実施)
第九十二条 前条第一項の規定による供託がされた場合において、その供託の事由が消滅したときは、執行裁判所は、供託金について配当等を実施しなければならない。
2 前項の規定により配当を実施すべき場合において、前条第一項第一号から第五号までに掲げる事由による供託に係る債権者若しくは同項第六号に掲げる事由による供託に係る仮差押債権者若しくは執行を停止された差押債権者に対して配当を実施することができなくなったとき、又は同項第七号に掲げる事由による供託に係る債権者が債務者の提起した配当異議の訴えにおいて敗訴したときは、執行裁判所は、配当異議の申出をしなかった債権者のためにも配当表を変更しなければならない。
第三目 強制管理
(開始決定等)
第九十三条 執行裁判所は、強制管理の手続を開始するには、強制管理の開始決定をし、その開始決定において、債権者のために不動産を差し押さえる旨を宣言し、かつ、債務者に対し収益の処分を禁止し、及び債務者が賃貸料の請求権その他の当該不動産の収益に係る給付を求める権利(以下「給付請求権」という。)を有するときは、債務者に対して当該給付をする義務を負う者(以下「給付義務者」という。)に対しその給付の目的物を管理人に交付すべき旨を命じなければならない。
2 前項の収益は、後に収穫すべき天然果実及び既に弁済期が到来し、又は後に弁済期が到来すべき法定果実とする。
3 第一項の開始決定は、債務者及び給付義務者に送達しなければならない。
4 給付義務者に対する第一項の開始決定の効力は、開始決定が当該給付義務者に送達された時に生ずる。
5 強制管理の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
(二重開始決定)
第九十三条の二 既に強制管理の開始決定がされ、又は第百八十条第二号に規定する担保不動産収益執行の開始決定がされた不動産について強制管理の申立てがあったときは、執行裁判所は、更に強制管理の開始決定をするものとする。
(給付義務者に対する競合する債権差押命令等の陳述の催告)
第九十三条の三 裁判所書記官は、給付義務者に強制管理の開始決定を送達するに際し、当該給付義務者に対し、開始決定の送達の日から二週間以内に給付請求権に対する差押命令又は差押処分の存否その他の最高裁判所規則で定める事項について陳述すべき旨を催告しなければならない。この場合においては、第百四十七条第二項の規定を準用する。
(給付請求権に対する競合する債権差押命令等の効力の停止等)
第九十三条の四 第九十三条第四項の規定により強制管理の開始決定の効力が給付義務者に対して生じたときは、給付請求権に対する差押命令又は差押処分であって既に効力が生じていたものは、その効力を停止する。ただし、強制管理の開始決定の給付義務者に対する効力の発生が第百六十五条各号(第百六十七条の十四第一項において第百六十五条各号(第三号及び第四号を除く。)の規定を準用する場合及び第百九十三条第二項において準用する場合を含む。)に掲げる時後であるときは、この限りでない。
2 第九十三条第四項の規定により強制管理の開始決定の効力が給付義務者に対して生じたときは、給付請求権に対する仮差押命令であって既に効力が生じていたものは、その効力を停止する。
3 第一項の差押命令又は差押処分の債権者、同項の差押命令又は差押処分が効力を停止する時までに当該債権執行(第百四十三条に規定する債権執行をいう。)又は少額訴訟債権執行(第百六十七条の二第二項に規定する少額訴訟債権執行をいう。)の手続において配当要求をした債権者及び前項の仮差押命令の債権者は、第百七条第四項の規定にかかわらず、前二項の強制管理の手続において配当等を受けることができる。
(管理人の選任)
第九十四条 執行裁判所は、強制管理の開始決定と同時に、管理人を選任しなければならない。
2 信託会社(信託業法(平成十六年法律第百五十四号)第三条又は第五十三条第一項の免許を受けた者をいう。)、銀行その他の法人は、管理人となることができる。
(管理人の権限)
第九十五条 管理人は、強制管理の開始決定がされた不動産について、管理並びに収益の収取及び換価をすることができる。
2 管理人は、民法第六百二条に定める期間を超えて不動産を賃貸するには、債務者の同意を得なければならない。
3 管理人が数人あるときは、共同してその職務を行う。ただし、執行裁判所の許可を受けて、職務を分掌することができる。
4 管理人が数人あるときは、第三者の意思表示は、その一人に対してすれば足りる。
(強制管理のための不動産の占有等)
第九十六条 管理人は、不動産について、債務者の占有を解いて自らこれを占有することができる。
2 管理人は、前項の場合において、閉鎖した戸を開く必要があると認めるときは、執行官に対し援助を求めることができる。
3 第五十七条第三項の規定は、前項の規定により援助を求められた執行官について準用する。
(建物使用の許可)
第九十七条 債務者の居住する建物について強制管理の開始決定がされた場合において、債務者が他に居住すべき場所を得ることができないときは、執行裁判所は、申立てにより、債務者及びその者と生計を一にする同居の親族(婚姻又は縁組の届出をしていないが債務者と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にある者を含む。以下「債務者等」という。)の居住に必要な限度において、期間を定めて、その建物の使用を許可することができる。
2 債務者が管理人の管理を妨げたとき、又は事情の変更があったときは、執行裁判所は、申立てにより、前項の規定による決定を取り消し、又は変更することができる。
3 前二項の申立てについての決定に対しては、執行抗告をすることができる。
(収益等の分与)
第九十八条 強制管理により債務者の生活が著しく困窮することとなるときは、執行裁判所は、申立てにより、管理人に対し、収益又はその換価代金からその困窮の程度に応じ必要な金銭又は収益を債務者に分与すべき旨を命ずることができる。
2 前条第二項の規定は前項の規定による決定について、同条第三項の規定は前項の申立て又はこの項において準用する前条第二項の申立てについての決定について準用する。
(管理人の監督)
第九十九条 管理人は、執行裁判所が監督する。
(管理人の注意義務)
第百条 管理人は、善良な管理者の注意をもってその職務を行わなければならない。
2 管理人が前項の注意を怠ったときは、その管理人は、利害関係を有する者に対し、連帯して損害を賠償する責めに任ずる。
(管理人の報酬等)
第百一条 管理人は、強制管理のため必要な費用の前払及び執行裁判所の定める報酬を受けることができる。
2 前項の規定による決定に対しては、執行抗告をすることができる。
(管理人の解任)
第百二条 重要な事由があるときは、執行裁判所は、利害関係を有する者の申立てにより、又は職権で、管理人を解任することができる。この場合においては、その管理人を審尋しなければならない。
(計算の報告義務)
第百三条 管理人の任務が終了した場合においては、管理人又はその承継人は、遅滞なく、執行裁判所に計算の報告をしなければならない。
(強制管理の停止)
第百四条 第三十九条第一項第七号又は第八号に掲げる文書の提出があった場合においては、強制管理は、配当等の手続を除き、その時の態様で継続することができる。この場合においては、管理人は、配当等に充てるべき金銭を供託し、その事情を執行裁判所に届け出なければならない。
2 前項の規定により供託された金銭の額で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができるときは、執行裁判所は、配当等の手続を除き、強制管理の手続を取り消さなければならない。
(配当要求)
第百五条 執行力のある債務名義の正本を有する債権者及び第百八十一条第一項各号に掲げる文書により一般の先取特権を有することを証明した債権者は、執行裁判所に対し、配当要求をすることができる。
2 配当要求を却下する裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
(配当等に充てるべき金銭等)
第百六条 配当等に充てるべき金銭は、第九十八条第一項の規定による分与をした後の収益又はその換価代金から、不動産に対して課される租税その他の公課及び管理人の報酬その他の必要な費用を控除したものとする。
2 配当等に充てるべき金銭を生ずる見込みがないときは、執行裁判所は、強制管理の手続を取り消さなければならない。
(管理人による配当等の実施)
第百七条 管理人は、前条第一項に規定する費用を支払い、執行裁判所の定める期間ごとに、配当等に充てるべき金銭の額を計算して、配当等を実施しなければならない。
2 債権者が一人である場合又は債権者が二人以上であって配当等に充てるべき金銭で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる場合には、管理人は、債権者に弁済金を交付し、剰余金を債務者に交付する。
3 前項に規定する場合を除き、配当等に充てるべき金銭の配当について債権者間に協議が調ったときは、管理人は、その協議に従い配当を実施する。
4 配当等を受けるべき債権者は、次に掲げる者とする。
一 差押債権者のうち次のイからハまでのいずれかに該当するもの
イ 第一項の期間の満了までに強制管理の申立てをしたもの
ロ 第一項の期間の満了までに一般の先取特権の実行として第百八十条第二号に規定する担保不動産収益執行の申立てをしたもの
ハ 第一項の期間の満了までに第百八十条第二号に規定する担保不動産収益執行の申立てをしたもの(ロに掲げるものを除く。)であって、当該申立てが最初の強制管理の開始決定に係る差押えの登記前に登記(民事保全法第五十三条第二項に規定する保全仮登記を含む。)がされた担保権に基づくもの
二 仮差押債権者(第一項の期間の満了までに、強制管理の方法による仮差押えの執行の申立てをしたものに限る。)
三 第一項の期間の満了までに配当要求をした債権者
5 第三項の協議が調わないときは、管理人は、その事情を執行裁判所に届け出なければならない。
(管理人による配当等の額の供託)
第百八条 配当等を受けるべき債権者の債権について第九十一条第一項各号(第七号を除く。)に掲げる事由があるときは、管理人は、その配当等の額に相当する金銭を供託し、その事情を執行裁判所に届け出なければならない。債権者が配当等の受領のために出頭しなかったときも、同様とする。
(執行裁判所による配当等の実施)
第百九条 執行裁判所は、第百七条第五項の規定による届出があった場合には直ちに、第百四条第一項又は前条の規定による届出があった場合には供託の事由が消滅したときに、配当等の手続を実施しなければならない。
(弁済による強制管理の手続の取消し)
第百十条 各債権者が配当等によりその債権及び執行費用の全部の弁済を受けたときは、執行裁判所は、強制管理の手続を取り消さなければならない。
(強制競売の規定の準用)
第百十一条 第四十六条第一項、第四十七条第二項、第六項本文及び第七項、第四十八条、第五十三条、第五十四条、第八十四条第三項及び第四項、第八十七条第二項及び第三項並びに第八十八条の規定は強制管理について、第八十四条第一項及び第二項、第八十五条並びに第八十九条から第九十二条までの規定は第百九条の規定により執行裁判所が実施する配当等の手続について準用する。この場合において、第八十四条第三項及び第四項中「代金の納付後」とあるのは、「第百七条第一項の期間の経過後」と読み替えるものとする。
第二款 船舶に対する強制執行
(船舶執行の方法)
第百十二条 総トン数二十トン以上の船舶(端舟その他ろかい又は主としてろかいをもって運転する舟を除く。以下この節及び次章において「船舶」という。)に対する強制執行(以下「船舶執行」という。)は、強制競売の方法により行う。
(執行裁判所)
第百十三条 船舶執行については、強制競売の開始決定の時の船舶の所在地を管轄する地方裁判所が、執行裁判所として管轄する。
(開始決定等)
第百十四条 執行裁判所は、強制競売の手続を開始するには、強制競売の開始決定をし、かつ、執行官に対し、船舶の国籍を証する文書その他の船舶の航行のために必要な文書(以下「船舶国籍証書等」という。)を取り上げて執行裁判所に提出すべきことを命じなければならない。ただし、その開始決定前にされた開始決定により船舶国籍証書等が取り上げられているときは、執行官に対する命令を要しない。
2 強制競売の開始決定においては、債権者のために船舶を差し押さえる旨を宣言し、かつ、債務者に対し船舶の出航を禁止しなければならない。
3 強制競売の開始決定の送達又は差押えの登記前に執行官が船舶国籍証書等を取り上げたときは、差押えの効力は、その取上げの時に生ずる。
(船舶執行の申立て前の船舶国籍証書等の引渡命令)
第百十五条 船舶執行の申立て前に船舶国籍証書等を取り上げなければ船舶執行が著しく困難となるおそれがあるときは、その船舶の船籍の所在地(船籍のない船舶にあっては、最高裁判所の指定する地)を管轄する地方裁判所は、申立てにより、債務者に対し、船舶国籍証書等を執行官に引き渡すべき旨を命ずることができる。急迫の事情があるときは、船舶の所在地を管轄する地方裁判所も、この命令を発することができる。
2 前項の規定による裁判は、口頭弁論を経ないですることができる。
3 第一項の申立てをするには、執行力のある債務名義の正本を提示し、かつ、同項に規定する事由を疎明しなければならない。
4 執行官は、船舶国籍証書等の引渡しを受けた日から五日以内に債権者が船舶執行の申立てをしたことを証する文書を提出しないときは、その船舶国籍証書等を債務者に返還しなければならない。
5 第一項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
6 前項の即時抗告は、執行停止の効力を有しない。
7 第五十五条第八項から第十項までの規定は、第一項の規定による決定について準用する。
(保管人の選任等)
第百十六条 執行裁判所は、差押債権者の申立てにより、必要があると認めるときは、強制競売の開始決定がされた船舶について保管人を選任することができる。
2 前項の保管人が船舶の保管のために要した費用(第四項において準用する第百一条第一項の報酬を含む。)は、手続費用とする。
3 第一項の申立てについての決定に対しては、執行抗告をすることができる。
4 第九十四条第二項、第九十六条及び第九十九条から第百三条までの規定は、第一項の保管人について準用する。
(保証の提供による強制競売の手続の取消し)
第百十七条 差押債権者の債権について、第三十九条第一項第七号又は第八号に掲げる文書が提出されている場合において、債務者が差押債権者及び保証の提供の時(配当要求の終期後にあっては、その終期)までに配当要求をした債権者の債権及び執行費用の総額に相当する保証を買受けの申出前に提供したときは、執行裁判所は、申立てにより、配当等の手続を除き、強制競売の手続を取り消さなければならない。
2 前項に規定する文書の提出による執行停止がその効力を失ったときは、執行裁判所は、同項の規定により提供された保証について、同項の債権者のために配当等を実施しなければならない。この場合において、執行裁判所は、保証の提供として供託された有価証券を取り戻すことができる。
3 第一項の申立てを却下する裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
4 第十二条の規定は、第一項の規定による決定については適用しない。
5 第十五条の規定は第一項の保証の提供について、第七十八条第三項の規定は第一項の保証が金銭の供託以外の方法で提供されている場合の換価について準用する。
(航行許可)
第百十八条 執行裁判所は、営業上の必要その他相当の事由があると認める場合において、各債権者並びに最高価買受申出人又は買受人及び次順位買受申出人の同意があるときは、債務者の申立てにより、船舶の航行を許可することができる。
2 前項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
3 第一項の規定による決定は、確定しなければその効力を生じない。
(事件の移送)
第百十九条 執行裁判所は、強制競売の開始決定がされた船舶が管轄区域外の地に所在することとなった場合には、船舶の所在地を管轄する地方裁判所に事件を移送することができる。
2 前項の規定による決定に対しては、不服を申し立てることができない。
(船舶国籍証書等の取上げができない場合の強制競売の手続の取消し)
第百二十条 執行官が強制競売の開始決定の発せられた日から二週間以内に船舶国籍証書等を取り上げることができないときは、執行裁判所は、強制競売の手続を取り消さなければならない。
(不動産に対する強制競売の規定の準用)
第百二十一条 前款第二目(第四十五条第一項、第四十六条第二項、第四十八条、第五十四条、第五十五条第一項第二号、第五十六条、第六十四条の二、第六十五条の二、第六十八条の四、第七十一条第五号、第八十一条及び第八十二条を除く。)の規定は船舶執行について、第四十八条、第五十四条及び第八十二条の規定は船舶法(明治三十二年法律第四十六号)第一条に規定する日本船舶に対する強制執行について、それぞれ準用する。この場合において、第五十一条第一項中「第百八十一条第一項各号に掲げる文書」とあるのは「文書」と、「一般の先取特権」とあるのは「先取特権」と読み替えるものとする。
第三款 動産に対する強制執行
(動産執行の開始等)
第百二十二条 動産(登記することができない土地の定着物、土地から分離する前の天然果実で一月以内に収穫することが確実であるもの及び裏書の禁止されている有価証券以外の有価証券を含む。以下この節、次章及び第四章において同じ。)に対する強制執行(以下「動産執行」という。)は、執行官の目的物に対する差押えにより開始する。
2 動産執行においては、執行官は、差押債権者のためにその債権及び執行費用の弁済を受領することができる。
(債務者の占有する動産の差押え)
第百二十三条 債務者の占有する動産の差押えは、執行官がその動産を占有して行う。
2 執行官は、前項の差押えをするに際し、債務者の住居その他債務者の占有する場所に立ち入り、その場所において、又は債務者の占有する金庫その他の容器について目的物を捜索することができる。この場合において、必要があるときは、閉鎖した戸及び金庫その他の容器を開くため必要な処分をすることができる。
3 執行官は、相当であると認めるときは、債務者に差し押さえた動産(以下「差押物」という。)を保管させることができる。この場合においては、差押えは、差押物について封印その他の方法で差押えの表示をしたときに限り、その効力を有する。
4 執行官は、前項の規定により債務者に差押物を保管させる場合において、相当であると認めるときは、その使用を許可することができる。
5 執行官は、必要があると認めるときは、第三項の規定により債務者に保管させた差押物を自ら保管し、又は前項の規定による許可を取り消すことができる。
(債務者以外の者の占有する動産の差押え)
第百二十四条 前条第一項及び第三項から第五項までの規定は、債権者又は提出を拒まない第三者の占有する動産の差押えについて準用する。
(二重差押えの禁止及び事件の併合)
第百二十五条 執行官は、差押物又は仮差押えの執行をした動産を更に差し押さえることができない。
2 差押えを受けた債務者に対しその差押えの場所について更に動産執行の申立てがあった場合においては、執行官は、まだ差し押さえていない動産があるときはこれを差し押さえ、差し押さえるべき動産がないときはその旨を明らかにして、その動産執行事件と先の動産執行事件とを併合しなければならない。仮差押えの執行を受けた債務者に対しその執行の場所について更に動産執行の申立てがあったときも、同様とする。
3 前項前段の規定により二個の動産執行事件が併合されたときは、後の事件において差し押さえられた動産は、併合の時に、先の事件において差し押さえられたものとみなし、後の事件の申立ては、配当要求の効力を生ずる。先の差押債権者が動産執行の申立てを取り下げたとき、又はその申立てに係る手続が停止され、若しくは取り消されたときは、先の事件において差し押さえられた動産は、併合の時に、後の事件のために差し押さえられたものとみなす。
4 第二項後段の規定により仮差押執行事件と動産執行事件とが併合されたときは、仮差押えの執行がされた動産は、併合の時に、動産執行事件において差し押さえられたものとみなし、仮差押執行事件の申立ては、配当要求の効力を生ずる。差押債権者が動産執行の申立てを取り下げたとき、又はその申立てに係る手続が取り消されたときは、動産執行事件において差し押さえられた動産は、併合の時に、仮差押執行事件において仮差押えの執行がされたものとみなす。
(差押えの効力が及ぶ範囲)
第百二十六条 差押えの効力は、差押物から生ずる天然の産出物に及ぶ。
(差押物の引渡命令)
第百二十七条 差押物を第三者が占有することとなったときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てにより、その第三者に対し、差押物を執行官に引き渡すべき旨を命ずることができる。
2 前項の申立ては、差押物を第三者が占有していることを知った日から一週間以内にしなければならない。
3 第一項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
4 第五十五条第八項から第十項までの規定は、第一項の規定による決定について準用する。
(超過差押えの禁止等)
第百二十八条 動産の差押えは、差押債権者の債権及び執行費用の弁済に必要な限度を超えてはならない。
2 差押えの後にその差押えが前項の限度を超えることが明らかとなったときは、執行官は、その超える限度において差押えを取り消さなければならない。
(剰余を生ずる見込みのない場合の差押えの禁止等)
第百二十九条 差し押さえるべき動産の売得金の額が手続費用の額を超える見込みがないときは、執行官は、差押えをしてはならない。
2 差押物の売得金の額が手続費用及び差押債権者の債権に優先する債権の額の合計額以上となる見込みがないときは、執行官は、差押えを取り消さなければならない。
(売却の見込みのない差押物の差押えの取消し)
第百三十条 差押物について相当な方法による売却の実施をしてもなお売却の見込みがないときは、執行官は、その差押物の差押えを取り消すことができる。
(差押禁止動産)
第百三十一条 次に掲げる動産は、差し押さえてはならない。
一 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
二 債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料
三 標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭
四 主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物
五 主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物
六 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)
七 実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの
八 仏像、位牌はいその他礼拝又は祭祀しに直接供するため欠くことができない物
九 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類
十 債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物
十一 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具
十二 発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの
十三 債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
十四 建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品
(差押禁止動産の範囲の変更)
第百三十二条 執行裁判所は、申立てにより、債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して、差押えの全部若しくは一部の取消しを命じ、又は前条各号に掲げる動産の差押えを許すことができる。
2 事情の変更があったときは、執行裁判所は、申立てにより、前項の規定により差押えが取り消された動産の差押えを許し、又は同項の規定による差押えの全部若しくは一部の取消しを命ずることができる。
3 前二項の規定により差押えの取消しの命令を求める申立てがあったときは、執行裁判所は、その裁判が効力を生ずるまでの間、担保を立てさせ、又は立てさせないで強制執行の停止を命ずることができる。
4 第一項又は第二項の申立てを却下する決定及びこれらの規定により差押えを許す決定に対しては、執行抗告をすることができる。
5 第三項の規定による決定に対しては、不服を申し立てることができない。
(先取特権者等の配当要求)
第百三十三条 先取特権又は質権を有する者は、その権利を証する文書を提出して、配当要求をすることができる。
(売却の方法)
第百三十四条 執行官は、差押物を売却するには、入札又は競り売りのほか、最高裁判所規則で定める方法によらなければならない。
(売却の場所の秩序維持等に関する規定の準用)
第百三十五条 第六十五条及び第六十八条の規定は、差押物を売却する場合について準用する。
(手形等の提示義務)
第百三十六条 執行官は、手形、小切手その他の金銭の支払を目的とする有価証券でその権利の行使のため定められた期間内に引受け若しくは支払のための提示又は支払の請求(以下「提示等」という。)を要するもの(以下「手形等」という。)を差し押さえた場合において、その期間の始期が到来したときは、債務者に代わって手形等の提示等をしなければならない。
(執行停止中の売却)
第百三十七条 第三十九条第一項第七号又は第八号に掲げる文書の提出があった場合において、差押物について著しい価額の減少を生ずるおそれがあるとき、又はその保管のために不相応な費用を要するときは、執行官は、その差押物を売却することができる。
2 執行官は、前項の規定により差押物を売却したときは、その売得金を供託しなければならない。
(有価証券の裏書等)
第百三十八条 執行官は、有価証券を売却したときは、買受人のために、債務者に代わって裏書又は名義書換えに必要な行為をすることができる。
(執行官による配当等の実施)
第百三十九条 債権者が一人である場合又は債権者が二人以上であって売得金、差押金銭若しくは手形等の支払金(以下「売得金等」という。)で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる場合には、執行官は、債権者に弁済金を交付し、剰余金を債務者に交付する。
2 前項に規定する場合を除き、売得金等の配当について債権者間に協議が調ったときは、執行官は、その協議に従い配当を実施する。
3 前項の協議が調わないときは、執行官は、その事情を執行裁判所に届け出なければならない。
4 第八十四条第三項及び第四項並びに第八十八条の規定は、第一項又は第二項の規定により配当等を実施する場合について準用する。
(配当等を受けるべき債権者の範囲)
第百四十条 配当等を受けるべき債権者は、差押債権者のほか、売得金については執行官がその交付を受けるまで(第百三十七条又は民事保全法第四十九条第三項の規定により供託された売得金については、動産執行が続行されることとなるまで)に、差押金銭についてはその差押えをするまでに、手形等の支払金についてはその支払を受けるまでに配当要求をした債権者とする。
(執行官の供託)
第百四十一条 第百三十九条第一項又は第二項の規定により配当等を実施する場合において、配当等を受けるべき債権者の債権について次に掲げる事由があるときは、執行官は、その配当等の額に相当する金銭を供託し、その事情を執行裁判所に届け出なければならない。
一 停止条件付又は不確定期限付であるとき。
二 仮差押債権者の債権であるとき。
三 第三十九条第一項第七号又は第百九十二条において準用する第百八十三条第一項第六号に掲げる文書が提出されているとき。
四 その債権に係る先取特権又は質権の実行を一時禁止する裁判の正本が提出されているとき。
2 執行官は、配当等の受領のために出頭しなかった債権者に対する配当等の額に相当する金銭を供託しなければならない。
(執行裁判所による配当等の実施)
第百四十二条 執行裁判所は、第百三十九条第三項の規定による届出があった場合には直ちに、前条第一項の規定による届出があった場合には供託の事由が消滅したときに、配当等の手続を実施しなければならない。
2 第八十四条、第八十五条及び第八十八条から第九十二条までの規定は、前項の規定により執行裁判所が実施する配当等の手続について準用する。
第四款 債権及びその他の財産権に対する強制執行
第一目 債権執行等
(債権執行の開始)
第百四十三条 金銭の支払又は船舶若しくは動産の引渡しを目的とする債権(動産執行の目的となる有価証券が発行されている債権を除く。以下この節において「債権」という。)に対する強制執行(第百六十七条の二第二項に規定する少額訴訟債権執行を除く。以下この節において「債権執行」という。)は、執行裁判所の差押命令により開始する。
(執行裁判所)
第百四十四条 債権執行については、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が、この普通裁判籍がないときは差し押さえるべき債権の所在地を管轄する地方裁判所が、執行裁判所として管轄する。
2 差し押さえるべき債権は、その債権の債務者(以下「第三債務者」という。)の普通裁判籍の所在地にあるものとする。ただし、船舶又は動産の引渡しを目的とする債権及び物上の担保権により担保される債権は、その物の所在地にあるものとする。
3 差押えに係る債権(差押命令により差し押さえられた債権に限る。以下この目において同じ。)について更に差押命令が発せられた場合において、差押命令を発した執行裁判所が異なるときは、執行裁判所は、事件を他の執行裁判所に移送することができる。
4 前項の規定による決定に対しては、不服を申し立てることができない。
(差押命令)
第百四十五条 執行裁判所は、差押命令において、債務者に対し債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない。
2 差押命令は、債務者及び第三債務者を審尋しないで発する。
3 差押命令は、債務者及び第三債務者に送達しなければならない。
4 裁判所書記官は、差押命令を送達するに際し、債務者に対し、最高裁判所規則で定めるところにより、第百五十三条第一項又は第二項の規定による当該差押命令の取消しの申立てをすることができる旨その他最高裁判所規則で定める事項を教示しなければならない。
5 差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達された時に生ずる。
6 差押命令の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
7 執行裁判所は、債務者に対する差押命令の送達をすることができない場合には、差押債権者に対し、相当の期間を定め、その期間内に債務者の住所、居所その他差押命令の送達をすべき場所の申出(第二十条において準用する民事訴訟法第百十条第一項各号に掲げる場合にあっては、公示送達の申立て。次項において同じ。)をすべきことを命ずることができる。
8 執行裁判所は、前項の申出を命じた場合において、差押債権者が同項の申出をしないときは、差押命令を取り消すことができる。
(差押えの範囲)
第百四十六条 執行裁判所は、差し押さえるべき債権の全部について差押命令を発することができる。
2 差し押さえた債権の価額が差押債権者の債権及び執行費用の額を超えるときは、執行裁判所は、他の債権を差し押さえてはならない。
(第三債務者の陳述の催告)
第百四十七条 差押債権者の申立てがあるときは、裁判所書記官は、差押命令を送達するに際し、第三債務者に対し、差押命令の送達の日から二週間以内に差押えに係る債権の存否その他の最高裁判所規則で定める事項について陳述すべき旨を催告しなければならない。
2 第三債務者は、前項の規定による催告に対して、故意又は過失により、陳述をしなかったとき、又は不実の陳述をしたときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。
(債権証書の引渡し)
第百四十八条 差押えに係る債権について証書があるときは、債務者は、差押債権者に対し、その証書を引き渡さなければならない。
2 差押債権者は、差押命令に基づいて、第百六十九条に規定する動産の引渡しの強制執行の方法により前項の証書の引渡しを受けることができる。
(差押えが一部競合した場合の効力)
第百四十九条 債権の一部が差し押さえられ、又は仮差押えの執行を受けた場合において、その残余の部分を超えて差押命令が発せられたときは、各差押え又は仮差押えの執行の効力は、その債権の全部に及ぶ。債権の全部が差し押さえられ、又は仮差押えの執行を受けた場合において、その債権の一部について差押命令が発せられたときのその差押えの効力も、同様とする。
(先取特権等によって担保される債権の差押えの登記等の嘱託)
第百五十条 登記又は登録(以下「登記等」という。)のされた先取特権、質権又は抵当権によって担保される債権に対する差押命令が効力を生じたときは、裁判所書記官は、申立てにより、その債権について差押えがされた旨の登記等を嘱託しなければならない。
(継続的給付の差押え)
第百五十一条 給料その他継続的給付に係る債権に対する差押えの効力は、差押債権者の債権及び執行費用の額を限度として、差押えの後に受けるべき給付に及ぶ。
(扶養義務等に係る定期金債権を請求する場合の特例)
第百五十一条の二 債権者が次に掲げる義務に係る確定期限の定めのある定期金債権を有する場合において、その一部に不履行があるときは、第三十条第一項の規定にかかわらず、当該定期金債権のうち確定期限が到来していないものについても、債権執行を開始することができる。
一 民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
二 民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
三 民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
四 民法第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務
2 前項の規定により開始する債権執行においては、各定期金債権について、その確定期限の到来後に弁済期が到来する給料その他継続的給付に係る債権のみを差し押さえることができる。
(差押禁止債権)
第百五十二条 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。
一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権
2 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の四分の三に相当する部分は、差し押さえてはならない。
3 債権者が前条第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権(金銭の支払を目的とする債権をいう。以下同じ。)を請求する場合における前二項の規定の適用については、前二項中「四分の三」とあるのは、「二分の一」とする。
(差押禁止債権の範囲の変更)
第百五十三条 執行裁判所は、申立てにより、債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して、差押命令の全部若しくは一部を取り消し、又は前条の規定により差し押さえてはならない債権の部分について差押命令を発することができる。
2 事情の変更があったときは、執行裁判所は、申立てにより、前項の規定により差押命令が取り消された債権を差し押さえ、又は同項の規定による差押命令の全部若しくは一部を取り消すことができる。
3 前二項の申立てがあったときは、執行裁判所は、その裁判が効力を生ずるまでの間、担保を立てさせ、又は立てさせないで、第三債務者に対し、支払その他の給付の禁止を命ずることができる。
4 第一項又は第二項の規定による差押命令の取消しの申立てを却下する決定に対しては、執行抗告をすることができる。
5 第三項の規定による決定に対しては、不服を申し立てることができない。
(配当要求)
第百五十四条 執行力のある債務名義の正本を有する債権者及び文書により先取特権を有することを証明した債権者は、配当要求をすることができる。
2 前項の配当要求があったときは、その旨を記載した文書は、第三債務者に送達しなければならない。
3 配当要求を却下する裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
(差押債権者の金銭債権の取立て)
第百五十五条 金銭債権を差し押さえた債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から一週間を経過したときは、その債権を取り立てることができる。ただし、差押債権者の債権及び執行費用の額を超えて支払を受けることができない。
2 差し押さえられた金銭債権が第百五十二条第一項各号に掲げる債権又は同条第二項に規定する債権である場合(差押債権者の債権に第百五十一条の二第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権が含まれているときを除く。)における前項の規定の適用については、同項中「一週間」とあるのは、「四週間」とする。
3 差押債権者が第三債務者から支払を受けたときは、その債権及び執行費用は、支払を受けた額の限度で、弁済されたものとみなす。
4 差押債権者は、前項の支払を受けたときは、直ちに、その旨を執行裁判所に届け出なければならない。
5 差押債権者は、第一項の規定により金銭債権を取り立てることができることとなった日(前項又はこの項の規定による届出をした場合にあっては、最後に当該届出をした日。次項において同じ。)から第三項の支払を受けることなく二年を経過したときは、同項の支払を受けていない旨を執行裁判所に届け出なければならない。
6 第一項の規定により金銭債権を取り立てることができることとなった日から二年を経過した後四週間以内に差押債権者が前二項の規定による届出をしないときは、執行裁判所は、差押命令を取り消すことができる。
7 差押債権者が前項の規定により差押命令を取り消す旨の決定の告知を受けてから一週間の不変期間内に第四項の規定による届出(差し押さえられた金銭債権の全部の支払を受けた旨の届出を除く。)又は第五項の規定による届出をしたときは、当該決定は、その効力を失う。
8 差押債権者が第五項に規定する期間を経過する前に執行裁判所に第三項の支払を受けていない旨の届出をしたときは、第五項及び第六項の規定の適用については、第五項の規定による届出があったものとみなす。
(第三債務者の供託)
第百五十六条 第三債務者は、差押えに係る金銭債権(差押命令により差し押さえられた金銭債権に限る。以下この条及び第百六十一条の二において同じ。)の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託することができる。
2 第三債務者は、次条第一項に規定する訴えの訴状の送達を受ける時までに、差押えに係る金銭債権のうち差し押さえられていない部分を超えて発せられた差押命令、差押処分又は仮差押命令の送達を受けたときはその債権の全額に相当する金銭を、配当要求があった旨を記載した文書の送達を受けたときは差し押さえられた部分に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託しなければならない。
3 第三債務者は、第百六十一条の二第一項に規定する供託命令の送達を受けたときは、差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託しなければならない。
4 第三債務者は、前三項の規定による供託をしたときは、その事情を執行裁判所に届け出なければならない。
(取立訴訟)
第百五十七条 差押債権者が第三債務者に対し差し押さえた債権に係る給付を求める訴え(以下「取立訴訟」という。)を提起したときは、受訴裁判所は、第三債務者の申立てにより、他の債権者で訴状の送達の時までにその債権を差し押さえたものに対し、共同訴訟人として原告に参加すべきことを命ずることができる。
2 前項の裁判は、口頭弁論を経ないですることができる。
3 取立訴訟の判決の効力は、第一項の規定により参加すべきことを命じられた差押債権者で参加しなかったものにも及ぶ。
4 前条第二項又は第三項の規定により供託の義務を負う第三債務者に対する取立訴訟において、原告の請求を認容するときは、受訴裁判所は、請求に係る金銭の支払は供託の方法によりすべき旨を判決の主文に掲げなければならない。
5 強制執行又は競売において、前項に規定する判決の原告が配当等を受けるべきときは、その配当等の額に相当する金銭は、供託しなければならない。
(債権者の損害賠償)
第百五十八条 差押債権者は、債務者に対し、差し押さえた債権の行使を怠ったことによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。
(転付命令)
第百五十九条 執行裁判所は、差押債権者の申立てにより、支払に代えて券面額で差し押さえられた金銭債権を差押債権者に転付する命令(以下「転付命令」という。)を発することができる。
2 転付命令は、債務者及び第三債務者に送達しなければならない。
3 転付命令が第三債務者に送達される時までに、転付命令に係る金銭債権について、他の債権者が差押え、仮差押えの執行又は配当要求をしたときは、転付命令は、その効力を生じない。
4 第一項の申立てについての決定に対しては、執行抗告をすることができる。
5 転付命令は、確定しなければその効力を生じない。
6 差し押さえられた金銭債権が第百五十二条第一項各号に掲げる債権又は同条第二項に規定する債権である場合(差押債権者の債権に第百五十一条の二第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権が含まれているときを除く。)における前項の規定の適用については、同項中「確定しなければ」とあるのは、「確定し、かつ、債務者に対して差押命令が送達された日から四週間を経過するまでは、」とする。
7 転付命令が発せられた後に第三十九条第一項第七号又は第八号に掲げる文書を提出したことを理由として執行抗告がされたときは、抗告裁判所は、他の理由により転付命令を取り消す場合を除き、執行抗告についての裁判を留保しなければならない。
(転付命令の効力)
第百六十条 転付命令が効力を生じた場合においては、差押債権者の債権及び執行費用は、転付命令に係る金銭債権が存する限り、その券面額で、転付命令が第三債務者に送達された時に弁済されたものとみなす。
(譲渡命令等)
第百六十一条 差し押さえられた債権が、条件付若しくは期限付であるとき、又は反対給付に係ることその他の事由によりその取立てが困難であるときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てにより、その債権を執行裁判所が定めた価額で支払に代えて差押債権者に譲渡する命令(以下「譲渡命令」という。)、取立てに代えて、執行裁判所の定める方法によりその債権の売却を執行官に命ずる命令(以下「売却命令」という。)又は管理人を選任してその債権の管理を命ずる命令(以下「管理命令」という。)その他相当な方法による換価を命ずる命令(第百六十七条の十第一項において「譲渡命令等」と総称する。)を発することができる。
2 執行裁判所は、前項の規定による決定をする場合には、債務者を審尋しなければならない。ただし、債務者が外国にあるとき、又はその住所が知れないときは、この限りでない。
3 第一項の申立てについての決定に対しては、執行抗告をすることができる。
4 第一項の規定による決定は、確定しなければその効力を生じない。
5 差し押さえられた債権が第百五十二条第一項各号に掲げる債権又は同条第二項に規定する債権である場合(差押債権者の債権に第百五十一条の二第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権が含まれているときを除く。)における前項の規定の適用については、同項中「確定しなければ」とあるのは、「確定し、かつ、債務者に対して差押命令が送達された日から四週間を経過するまでは、」とする。
6 執行官は、差し押さえられた債権を売却したときは、債務者に代わり、第三債務者に対し、確定日付のある証書によりその譲渡の通知をしなければならない。
7 第百五十九条第二項及び第三項並びに前条の規定は譲渡命令について、第百五十九条第七項の規定は譲渡命令に対する執行抗告について、第六十五条及び第六十八条の規定は売却命令に基づく執行官の売却について、第百五十九条第二項の規定は管理命令について、第八十四条第三項及び第四項、第八十八条、第九十四条第二項、第九十五条第一項、第三項及び第四項、第九十八条から第百四条まで並びに第百六条から第百十条までの規定は管理命令に基づく管理について、それぞれ準用する。この場合において、第八十四条第三項及び第四項中「代金の納付後」とあるのは、「第百六十一条第七項において準用する第百七条第一項の期間の経過後」と読み替えるものとする。
(供託命令)
第百六十一条の二 次の各号のいずれかに掲げる場合には、執行裁判所は、差押債権者の申立てにより、差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託すべきことを第三債務者に命ずる命令(以下この条及び第百六十七条の十において「供託命令」という。)を発することができる。
一 差押債権者又はその法定代理人の住所又は氏名について第二十条において準用する民事訴訟法第百三十三条第一項の決定がされたとき。
二 債務名義に民事訴訟法第百三十三条第五項(他の法律において準用する場合を含む。)の規定により定められた差押債権者又はその法定代理人の住所又は氏名に代わる事項が表示されているとき。
2 供託命令は、第三債務者に送達しなければならない。
3 第一項の申立てを却下する決定に対しては、執行抗告をすることができる。
4 供託命令に対しては、不服を申し立てることができない。
(船舶の引渡請求権の差押命令の執行)
第百六十二条 船舶の引渡請求権を差し押さえた債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から一週間を経過したときは、第三債務者に対し、船舶の所在地を管轄する地方裁判所の選任する保管人にその船舶を引き渡すべきことを請求することができる。
2 前項の規定により保管人が引渡しを受けた船舶の強制執行は、船舶執行の方法により行う。
3 第一項に規定する保管人が船舶の引渡しを受けた場合において、その船舶について強制競売の開始決定がされたときは、その保管人は、第百十六条第一項の規定により選任された保管人とみなす。
(動産の引渡請求権の差押命令の執行)
第百六十三条 動産の引渡請求権を差し押さえた債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から一週間を経過したときは、第三債務者に対し、差押債権者の申立てを受けた執行官にその動産を引き渡すべきことを請求することができる。
2 執行官は、動産の引渡しを受けたときは、動産執行の売却の手続によりこれを売却し、その売得金を執行裁判所に提出しなければならない。
(移転登記等の嘱託)
第百六十四条 第百五十条に規定する債権について、転付命令若しくは譲渡命令が効力を生じたとき、又は売却命令による売却が終了したときは、裁判所書記官は、申立てにより、その債権を取得した差押債権者又は買受人のために先取特権、質権又は抵当権の移転の登記等を嘱託し、及び同条の規定による登記等の抹消を嘱託しなければならない。
2 前項の規定による嘱託をする場合(次項に規定する場合を除く。)においては、嘱託書に、転付命令若しくは譲渡命令の正本又は売却命令に基づく売却について執行官が作成した文書の謄本を添付しなければならない。
3 第一項の規定による嘱託をする場合において、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第十六条第二項(他の法令において準用する場合を含む。)において準用する同法第十八条の規定による嘱託をするときは、その嘱託情報と併せて転付命令若しくは譲渡命令があったことを証する情報又は売却命令に基づく売却について執行官が作成した文書の内容を証する情報を提供しなければならない。
4 第一項の規定による嘱託に要する登録免許税その他の費用は、同項に規定する差押債権者又は買受人の負担とする。
5 第百五十条の規定により登記等がされた場合において、差し押さえられた債権について支払又は供託があったことを証する文書が提出されたときは、裁判所書記官は、申立てにより、その登記等の抹まっ消を嘱託しなければならない。債権執行の申立てが取り下げられたとき、又は差押命令の取消決定が確定したときも、同様とする。
6 前項の規定による嘱託に要する登録免許税その他の費用は、同項前段の場合にあっては債務者の負担とし、同項後段の場合にあっては差押債権者の負担とする。
(配当等を受けるべき債権者の範囲)
第百六十五条 配当等を受けるべき債権者は、次に掲げる時までに差押え、仮差押えの執行又は配当要求をした債権者とする。
一 第三債務者が第百五十六条第一項から第三項までの規定による供託をした時
二 取立訴訟の訴状が第三債務者に送達された時
三 売却命令により執行官が売得金の交付を受けた時
四 動産引渡請求権の差押えの場合にあっては、執行官がその動産の引渡しを受けた時
(配当等の実施)
第百六十六条 執行裁判所は、第百六十一条第七項において準用する第百九条に規定する場合のほか、次に掲げる場合には、配当等を実施しなければならない。
一 第百五十六条第一項から第三項まで又は第百五十七条第五項の規定による供託がされた場合
二 売却命令による売却がされた場合
三 第百六十三条第二項の規定により売得金が提出された場合
2 第八十四条、第八十五条及び第八十八条から第九十二条までの規定は、前項の規定により執行裁判所が実施する配当等の手続について準用する。
3 差し押さえられた債権が第百五十二条第一項各号に掲げる債権又は同条第二項に規定する債権である場合(差押債権者(数人あるときは、そのうち少なくとも一人以上)の債権に第百五十一条の二第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権が含まれているときを除く。)には、債務者に対して差押命令が送達された日から四週間を経過するまでは、配当等を実施してはならない。
(その他の財産権に対する強制執行)
第百六十七条 不動産、船舶、動産及び債権以外の財産権(以下この条において「その他の財産権」という。)に対する強制執行については、特別の定めがあるもののほか、債権執行の例による。
2 その他の財産権で権利の移転について登記等を要するものは、強制執行の管轄については、その登記等の地にあるものとする。
3 その他の財産権で第三債務者又はこれに準ずる者がないものに対する差押えの効力は、差押命令が債務者に送達された時に生ずる。
4 その他の財産権で権利の移転について登記等を要するものについて差押えの登記等が差押命令の送達前にされた場合には、差押えの効力は、差押えの登記等がされた時に生ずる。ただし、その他の財産権で権利の処分の制限について登記等をしなければその効力が生じないものに対する差押えの効力は、差押えの登記等が差押命令の送達後にされた場合においても、差押えの登記等がされた時に生ずる。
5 第四十八条、第五十四条及び第八十二条の規定は、権利の移転について登記等を要するその他の財産権の強制執行に関する登記等について準用する。
第二目 少額訴訟債権執行
(少額訴訟債権執行の開始等)
第百六十七条の二 次に掲げる少額訴訟に係る債務名義による金銭債権に対する強制執行は、前目の定めるところにより裁判所が行うほか、第二条の規定にかかわらず、申立てにより、この目の定めるところにより裁判所書記官が行う。
一 少額訴訟における確定判決
二 仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決
三 少額訴訟における訴訟費用又は和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分
四 少額訴訟における和解又は認諾の調書
五 少額訴訟における民事訴訟法第二百七十五条の二第一項の規定による和解に代わる決定
2 前項の規定により裁判所書記官が行う同項の強制執行(以下この目において「少額訴訟債権執行」という。)は、裁判所書記官の差押処分により開始する。
3 少額訴訟債権執行の申立ては、次の各号に掲げる債務名義の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める簡易裁判所の裁判所書記官に対してする。
一 第一項第一号に掲げる債務名義 同号の判決をした簡易裁判所
二 第一項第二号に掲げる債務名義 同号の判決をした簡易裁判所
三 第一項第三号に掲げる債務名義 同号の処分をした裁判所書記官の所属する簡易裁判所
四 第一項第四号に掲げる債務名義 同号の和解が成立し、又は同号の認諾がされた簡易裁判所
五 第一項第五号に掲げる債務名義 同号の和解に代わる決定をした簡易裁判所
4 第百四十四条第三項及び第四項の規定は、差押えに係る金銭債権(差押処分により差し押さえられた金銭債権に限る。以下この目において同じ。)について更に差押処分がされた場合について準用する。この場合において、同条第三項中「差押命令を発した執行裁判所」とあるのは「差押処分をした裁判所書記官の所属する簡易裁判所」と、「執行裁判所は」とあるのは「裁判所書記官は」と、「他の執行裁判所」とあるのは「他の簡易裁判所の裁判所書記官」と、同条第四項中「決定」とあるのは「裁判所書記官の処分」と読み替えるものとする。
(執行裁判所)
第百六十七条の三 少額訴訟債権執行の手続において裁判所書記官が行う執行処分に関しては、その裁判所書記官の所属する簡易裁判所をもって執行裁判所とする。
(裁判所書記官の執行処分の効力等)
第百六十七条の四 少額訴訟債権執行の手続において裁判所書記官が行う執行処分は、特別の定めがある場合を除き、相当と認める方法で告知することによって、その効力を生ずる。
2 前項に規定する裁判所書記官が行う執行処分に対しては、執行裁判所に執行異議を申し立てることができる。
3 第十条第六項前段及び第九項の規定は、前項の規定による執行異議の申立てがあった場合について準用する。
(差押処分)
第百六十七条の五 裁判所書記官は、差押処分において、債務者に対し金銭債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない。
2 第百四十五条第二項、第三項、第五項、第七項及び第八項の規定は差押処分について、同条第四項の規定は差押処分を送達する場合について、それぞれ準用する。この場合において、同項中「第百五十三条第一項又は第二項」とあるのは「第百六十七条の八第一項又は第二項」と、同条第七項及び第八項中「執行裁判所」とあるのは「裁判所書記官」と読み替えるものとする。
3 差押処分の申立てについての裁判所書記官の処分に対する執行異議の申立ては、その告知を受けた日から一週間の不変期間内にしなければならない。
4 前項の執行異議の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
5 民事訴訟法第七十四条第一項の規定は、差押処分の申立てについての裁判所書記官の処分について準用する。この場合においては、前二項及び同条第三項の規定を準用する。
6 第二項において読み替えて準用する第百四十五条第八項の規定による裁判所書記官の処分に対する執行異議の申立ては、その告知を受けた日から一週間の不変期間内にしなければならない。
7 前項の執行異議の申立てを却下する裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
8 第二項において読み替えて準用する第百四十五条第八項の規定による裁判所書記官の処分は、確定しなければその効力を生じない。
(費用の予納等)
第百六十七条の六 少額訴訟債権執行についての第十四条第一項及び第四項の規定の適用については、これらの規定中「執行裁判所」とあるのは、「裁判所書記官」とする。
2 第十四条第二項及び第三項の規定は、前項の規定により読み替えて適用する同条第一項の規定による裁判所書記官の処分については、適用しない。
3 第一項の規定により読み替えて適用する第十四条第四項の規定による裁判所書記官の処分に対する執行異議の申立ては、その告知を受けた日から一週間の不変期間内にしなければならない。
4 前項の執行異議の申立てを却下する裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
5 第一項の規定により読み替えて適用する第十四条第四項の規定により少額訴訟債権執行の手続を取り消す旨の裁判所書記官の処分は、確定しなければその効力を生じない。
(第三者異議の訴えの管轄裁判所)
第百六十七条の七 少額訴訟債権執行の不許を求める第三者異議の訴えは、第三十八条第三項の規定にかかわらず、執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
(差押禁止債権の範囲の変更)
第百六十七条の八 執行裁判所は、申立てにより、債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して、差押処分の全部若しくは一部を取り消し、又は第百六十七条の十四第一項において準用する第百五十二条の規定により差し押さえてはならない金銭債権の部分について差押処分をすべき旨を命ずることができる。
2 事情の変更があったときは、執行裁判所は、申立てにより、前項の規定により差押処分が取り消された金銭債権について差押処分をすべき旨を命じ、又は同項の規定によりされた差押処分の全部若しくは一部を取り消すことができる。
3 第百五十三条第三項から第五項までの規定は、前二項の申立てがあった場合について準用する。この場合において、同条第四項中「差押命令」とあるのは、「差押処分」と読み替えるものとする。
(配当要求)
第百六十七条の九 執行力のある債務名義の正本を有する債権者及び文書により先取特権を有することを証明した債権者は、裁判所書記官に対し、配当要求をすることができる。
2 第百五十四条第二項の規定は、前項の配当要求があった場合について準用する。
3 第一項の配当要求を却下する旨の裁判所書記官の処分に対する執行異議の申立ては、その告知を受けた日から一週間の不変期間内にしなければならない。
4 前項の執行異議の申立てを却下する裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
(転付命令等のための移行)
第百六十七条の十 差押えに係る金銭債権について転付命令、譲渡命令等又は供託命令(以下この条において「転付命令等」という。)のいずれかの命令を求めようとするときは、差押債権者は、執行裁判所に対し、転付命令等のうちいずれの命令を求めるかを明らかにして、債権執行の手続に事件を移行させることを求める旨の申立てをしなければならない。
2 前項に規定する命令の種別を明らかにしてされた同項の申立てがあったときは、執行裁判所は、その所在地を管轄する地方裁判所における債権執行の手続に事件を移行させなければならない。
3 前項の規定による決定が効力を生ずる前に、既にされた執行処分について執行異議の申立て又は執行抗告があったときは、当該決定は、当該執行異議の申立て又は執行抗告についての裁判が確定するまでは、その効力を生じない。
4 第二項の規定による決定に対しては、不服を申し立てることができない。
5 第一項の申立てを却下する決定に対しては、執行抗告をすることができる。
6 第二項の規定による決定が効力を生じたときは、差押処分の申立て又は第一項の申立てがあった時に第二項に規定する地方裁判所にそれぞれ差押命令の申立て又は転付命令等の申立てがあったものとみなし、既にされた執行処分その他の行為は債権執行の手続においてされた執行処分その他の行為とみなす。
(配当等のための移行等)
第百六十七条の十一 第百六十七条の十四第一項において準用する第百五十六条第一項若しくは第二項又は第百五十七条第五項の規定により供託がされた場合において、債権者が二人以上であって供託金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができないため配当を実施すべきときは、執行裁判所は、その所在地を管轄する地方裁判所における債権執行の手続に事件を移行させなければならない。
2 前項に規定する場合において、差押えに係る金銭債権について更に差押命令又は差押処分が発せられたときは、執行裁判所は、同項に規定する地方裁判所における債権執行の手続のほか、当該差押命令を発した執行裁判所又は当該差押処分をした裁判所書記官の所属する簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所における債権執行の手続にも事件を移行させることができる。
3 第一項に規定する供託がされた場合において、債権者が一人であるとき、又は債権者が二人以上であって供託金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができるときは、裁判所書記官は、供託金の交付計算書を作成して、債権者に弁済金を交付し、剰余金を債務者に交付する。
4 前項に規定する場合において、差押えに係る金銭債権について更に差押命令が発せられたときは、執行裁判所は、同項の規定にかかわらず、その所在地を管轄する地方裁判所又は当該差押命令を発した執行裁判所における債権執行の手続に事件を移行させることができる。
5 差押えに係る金銭債権について更に差押命令が発せられた場合において、当該差押命令を発した執行裁判所が第百六十一条第七項において準用する第百九条の規定又は第百六十六条第一項第二号の規定により配当等を実施するときは、執行裁判所は、当該差押命令を発した執行裁判所における債権執行の手続に事件を移行させなければならない。
6 第一項、第二項、第四項又は前項の規定による決定に対しては、不服を申し立てることができない。
7 第八十四条第三項及び第四項、第八十八条、第九十一条(第一項第六号及び第七号を除く。)、第九十二条第一項並びに第百六十六条第三項の規定は第三項の規定により裁判所書記官が実施する弁済金の交付の手続について、前条第三項の規定は第一項、第二項、第四項又は第五項の規定による決定について、同条第六項の規定は第一項、第二項、第四項又は第五項の規定による決定が効力を生じた場合について、それぞれ準用する。この場合において、第百六十六条第三項中「差押命令」とあるのは、「差押処分」と読み替えるものとする。
(裁量移行)
第百六十七条の十二 執行裁判所は、差し押さえるべき金銭債権の内容その他の事情を考慮して相当と認めるときは、その所在地を管轄する地方裁判所における債権執行の手続に事件を移行させることができる。
2 前項の規定による決定に対しては、不服を申し立てることができない。
3 第百六十七条の十第三項の規定は第一項の規定による決定について、同条第六項の規定は第一項の規定による決定が効力を生じた場合について準用する。この場合において、同条第六項中「差押処分の申立て又は第一項の申立て」とあるのは「差押処分の申立て」と、「それぞれ差押命令の申立て又は転付命令等の申立て」とあるのは「差押命令の申立て」と読み替えるものとする。
(総則規定の適用関係)
第百六十七条の十三 少額訴訟債権執行についての第一章及び第二章第一節の規定の適用については、第十三条第一項中「執行裁判所でする手続」とあるのは「第百六十七条の二第二項に規定する少額訴訟債権執行の手続」と、第十六条第一項中「執行裁判所」とあるのは「裁判所書記官」と、第十七条中「執行裁判所の行う民事執行」とあるのは「第百六十七条の二第二項に規定する少額訴訟債権執行」と、第四十条第一項中「執行裁判所又は執行官」とあるのは「裁判所書記官」と、第四十二条第四項中「執行裁判所の裁判所書記官」とあるのは「裁判所書記官」とする。
(債権執行の規定の準用)
第百六十七条の十四 第百四十六条から第百五十二条まで、第百五十五条、第百五十六条(第三項を除く。)、第百五十七条、第百五十八条、第百六十四条第五項及び第六項並びに第百六十五条(第三号及び第四号を除く。)の規定は、少額訴訟債権執行について準用する。この場合において、第百四十六条、第百五十五条第四項から第六項まで及び第八項並びに第百五十六条第四項中「執行裁判所」とあるのは「裁判所書記官」と、第百四十六条第一項中「差押命令を発する」とあるのは「差押処分をする」と、第百四十七条第一項、第百四十八条第二項、第百五十条、第百五十五条第一項、第六項及び第七項並びに第百五十六条第一項中「差押命令」とあるのは「差押処分」と、第百四十七条第一項及び第百四十八条第一項中「差押えに係る債権」とあるのは「差押えに係る金銭債権」と、第百四十九条中「差押命令が発せられたとき」とあるのは「差押処分がされたとき」と、第百五十五条第七項中「決定」とあるのは「裁判所書記官の処分」と、第百六十四条第五項中「差押命令の取消決定」とあるのは「差押処分の取消決定若しくは差押処分を取り消す旨の裁判所書記官の処分」と、第百六十五条(見出しを含む。)中「配当等」とあるのは「弁済金の交付」と読み替えるものとする。
2 第百六十七条の五第六項から第八項までの規定は、前項において読み替えて準用する第百五十五条第六項の規定による裁判所書記官の処分がされた場合について準用する。
第五款 扶養義務等に係る金銭債権についての強制執行の特例
(扶養義務等に係る金銭債権についての間接強制)
第百六十七条の十五 第百五十一条の二第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権についての強制執行は、前各款の規定により行うほか、債権者の申立てがあるときは、執行裁判所が第百七十二条第一項に規定する方法により行う。ただし、債務者が、支払能力を欠くためにその金銭債権に係る債務を弁済することができないとき、又はその債務を弁済することによってその生活が著しく窮迫するときは、この限りでない。
2 前項の規定により同項に規定する金銭債権について第百七十二条第一項に規定する方法により強制執行を行う場合において、債務者が債権者に支払うべき金銭の額を定めるに当たっては、執行裁判所は、債務不履行により債権者が受けるべき不利益並びに債務者の資力及び従前の債務の履行の態様を特に考慮しなければならない。
3 事情の変更があったときは、執行裁判所は、債務者の申立てにより、その申立てがあった時(その申立てがあった後に事情の変更があったときは、その事情の変更があった時)までさかのぼって、第一項の規定による決定を取り消すことができる。
4 前項の申立てがあったときは、執行裁判所は、その裁判が効力を生ずるまでの間、担保を立てさせ、又は立てさせないで、第一項の規定による決定の執行の停止を命ずることができる。
5 前項の規定による決定に対しては、不服を申し立てることができない。
6 第百七十二条第二項から第五項までの規定は第一項の場合について、同条第三項及び第五項の規定は第三項の場合について、第百七十三条第二項の規定は第一項の執行裁判所について準用する。
(扶養義務等に係る定期金債権を請求する場合の特例)
第百六十七条の十六 債権者が第百五十一条の二第一項各号に掲げる義務に係る確定期限の定めのある定期金債権を有する場合において、その一部に不履行があるときは、第三十条第一項の規定にかかわらず、当該定期金債権のうち六月以内に確定期限が到来するものについても、前条第一項に規定する方法による強制執行を開始することができる。
第三節 金銭の支払を目的としない請求権についての強制執行
(不動産の引渡し等の強制執行)
第百六十八条 不動産等(不動産又は人の居住する船舶等をいう。以下この条及び次条において同じ。)の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法により行う。
2 執行官は、前項の強制執行をするため同項の不動産等の占有者を特定する必要があるときは、当該不動産等に在る者に対し、当該不動産等又はこれに近接する場所において、質問をし、又は文書の提示を求めることができる。
3 第一項の強制執行は、債権者又はその代理人が執行の場所に出頭したときに限り、することができる。
4 執行官は、第一項の強制執行をするに際し、債務者の占有する不動産等に立ち入り、必要があるときは、閉鎖した戸を開くため必要な処分をすることができる。
5 執行官は、第一項の強制執行においては、その目的物でない動産を取り除いて、債務者、その代理人又は同居の親族若しくは使用人その他の従業者で相当のわきまえのあるものに引き渡さなければならない。この場合において、その動産をこれらの者に引き渡すことができないときは、執行官は、最高裁判所規則で定めるところにより、これを売却することができる。
6 執行官は、前項の動産のうちに同項の規定による引渡し又は売却をしなかったものがあるときは、これを保管しなければならない。この場合においては、前項後段の規定を準用する。
7 前項の規定による保管の費用は、執行費用とする。
8 第五項(第六項後段において準用する場合を含む。)の規定により動産を売却したときは、執行官は、その売得金から売却及び保管に要した費用を控除し、その残余を供託しなければならない。
9 第五十七条第五項の規定は、第一項の強制執行について準用する。
(明渡しの催告)
第百六十八条の二 執行官は、不動産等の引渡し又は明渡しの強制執行の申立てがあった場合において、当該強制執行を開始することができるときは、次項に規定する引渡し期限を定めて、明渡しの催告(不動産等の引渡し又は明渡しの催告をいう。以下この条において同じ。)をすることができる。ただし、債務者が当該不動産等を占有していないときは、この限りでない。
2 引渡し期限(明渡しの催告に基づき第六項の規定による強制執行をすることができる期限をいう。以下この条において同じ。)は、明渡しの催告があった日から一月を経過する日とする。ただし、執行官は、執行裁判所の許可を得て、当該日以後の日を引渡し期限とすることができる。
3 執行官は、明渡しの催告をしたときは、その旨、引渡し期限及び第五項の規定により債務者が不動産等の占有を移転することを禁止されている旨を、当該不動産等の所在する場所に公示書その他の標識を掲示する方法により、公示しなければならない。
4 執行官は、引渡し期限が経過するまでの間においては、執行裁判所の許可を得て、引渡し期限を延長することができる。この場合においては、執行官は、引渡し期限の変更があった旨及び変更後の引渡し期限を、当該不動産等の所在する場所に公示書その他の標識を掲示する方法により、公示しなければならない。
5 明渡しの催告があったときは、債務者は、不動産等の占有を移転してはならない。ただし、債権者に対して不動産等の引渡し又は明渡しをする場合は、この限りでない。
6 明渡しの催告後に不動産等の占有の移転があったときは、引渡し期限が経過するまでの間においては、占有者(第一項の不動産等を占有する者であって債務者以外のものをいう。以下この条において同じ。)に対して、第一項の申立てに基づく強制執行をすることができる。この場合において、第四十二条及び前条の規定の適用については、当該占有者を債務者とみなす。
7 明渡しの催告後に不動産等の占有の移転があったときは、占有者は、明渡しの催告があったことを知らず、かつ、債務者の占有の承継人でないことを理由として、債権者に対し、強制執行の不許を求める訴えを提起することができる。この場合においては、第三十六条、第三十七条及び第三十八条第三項の規定を準用する。
8 明渡しの催告後に不動産等を占有した占有者は、明渡しの催告があったことを知って占有したものと推定する。
9 第六項の規定により占有者に対して強制執行がされたときは、当該占有者は、執行異議の申立てにおいて、債権者に対抗することができる権原により目的物を占有していること、又は明渡しの催告があったことを知らず、かつ、債務者の占有の承継人でないことを理由とすることができる。
10 明渡しの催告に要した費用は、執行費用とする。
(動産の引渡しの強制執行)
第百六十九条 第百六十八条第一項に規定する動産以外の動産(有価証券を含む。)の引渡しの強制執行は、執行官が債務者からこれを取り上げて債権者に引き渡す方法により行う。
2 第百二十二条第二項、第百二十三条第二項及び第百六十八条第五項から第八項までの規定は、前項の強制執行について準用する。
(目的物を第三者が占有する場合の引渡しの強制執行)
第百七十条 第三者が強制執行の目的物を占有している場合においてその物を債務者に引き渡すべき義務を負っているときは、物の引渡しの強制執行は、執行裁判所が、債務者の第三者に対する引渡請求権を差し押さえ、請求権の行使を債権者に許す旨の命令を発する方法により行う。
2 第百四十四条、第百四十五条(第四項を除く。)、第百四十七条、第百四十八条、第百五十五条第一項及び第三項並びに第百五十八条の規定は、前項の強制執行について準用する。
(代替執行)
第百七十一条 次の各号に掲げる強制執行は、執行裁判所がそれぞれ当該各号に定める旨を命ずる方法により行う。
一 作為を目的とする債務についての強制執行 債務者の費用で第三者に当該作為をさせること。
二 不作為を目的とする債務についての強制執行 債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすべきこと。
2 前項の執行裁判所は、第三十三条第二項第一号又は第六号に掲げる債務名義の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める裁判所とする。
3 執行裁判所は、第一項の規定による決定をする場合には、債務者を審尋しなければならない。
4 執行裁判所は、第一項の規定による決定をする場合には、申立てにより、債務者に対し、その決定に掲げる行為をするために必要な費用をあらかじめ債権者に支払うべき旨を命ずることができる。
5 第一項の強制執行の申立て又は前項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
6 第六条第二項の規定は、第一項の規定による決定を執行する場合について準用する。
(間接強制)
第百七十二条 作為又は不作為を目的とする債務で前条第一項の強制執行ができないものについての強制執行は、執行裁判所が、債務者に対し、遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずる方法により行う。
2 事情の変更があったときは、執行裁判所は、申立てにより、前項の規定による決定を変更することができる。
3 執行裁判所は、前二項の規定による決定をする場合には、申立ての相手方を審尋しなければならない。
4 第一項の規定により命じられた金銭の支払があった場合において、債務不履行により生じた損害の額が支払額を超えるときは、債権者は、その超える額について損害賠償の請求をすることを妨げられない。
5 第一項の強制執行の申立て又は第二項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
6 前条第二項の規定は、第一項の執行裁判所について準用する。
第百七十三条 第百六十八条第一項、第百六十九条第一項、第百七十条第一項及び第百七十一条第一項に規定する強制執行は、それぞれ第百六十八条から第百七十一条までの規定により行うほか、債権者の申立てがあるときは、執行裁判所が前条第一項に規定する方法により行う。この場合においては、同条第二項から第五項までの規定を準用する。
2 前項の執行裁判所は、第三十三条第二項各号(第一号の二、第一号の三及び第四号を除く。)に掲げる債務名義の区分に応じ、それぞれ当該債務名義についての執行文付与の訴えの管轄裁判所とする。
(子の引渡しの強制執行)
第百七十四条 子の引渡しの強制執行は、次の各号に掲げる方法のいずれかにより行う。
一 執行裁判所が決定により執行官に子の引渡しを実施させる方法
二 第百七十二条第一項に規定する方法
2 前項第一号に掲げる方法による強制執行の申立ては、次の各号のいずれかに該当するときでなければすることができない。
一 第百七十二条第一項の規定による決定が確定した日から二週間を経過したとき(当該決定において定められた債務を履行すべき一定の期間の経過がこれより後である場合にあっては、その期間を経過したとき)。
二 前項第二号に掲げる方法による強制執行を実施しても、債務者が子の監護を解く見込みがあるとは認められないとき。
三 子の急迫の危険を防止するため直ちに強制執行をする必要があるとき。
3 執行裁判所は、第一項第一号の規定による決定をする場合には、債務者を審尋しなければならない。ただし、子に急迫した危険があるときその他の審尋をすることにより強制執行の目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。
4 執行裁判所は、第一項第一号の規定による決定において、執行官に対し、債務者による子の監護を解くために必要な行為をすべきことを命じなければならない。
5 第百七十一条第二項の規定は第一項第一号の執行裁判所について、同条第四項の規定は同号の規定による決定をする場合について、それぞれ準用する。
6 第二項の強制執行の申立て又は前項において準用する第百七十一条第四項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
(執行官の権限等)
第百七十五条 執行官は、債務者による子の監護を解くために必要な行為として、債務者に対し説得を行うほか、債務者の住居その他債務者の占有する場所において、次に掲げる行為をすることができる。
一 その場所に立ち入り、子を捜索すること。この場合において、必要があるときは、閉鎖した戸を開くため必要な処分をすること。
二 債権者若しくはその代理人と子を面会させ、又は債権者若しくはその代理人と債務者を面会させること。
三 その場所に債権者又はその代理人を立ち入らせること。
2 執行官は、子の心身に及ぼす影響、当該場所及びその周囲の状況その他の事情を考慮して相当と認めるときは、前項に規定する場所以外の場所においても、債務者による子の監護を解くために必要な行為として、当該場所の占有者の同意を得て又は次項の規定による許可を受けて、前項各号に掲げる行為をすることができる。
3 執行裁判所は、子の住居が第一項に規定する場所以外の場所である場合において、債務者と当該場所の占有者との関係、当該占有者の私生活又は業務に与える影響その他の事情を考慮して相当と認めるときは、債権者の申立てにより、当該占有者の同意に代わる許可をすることができる。
4 執行官は、前項の規定による許可を受けて第一項各号に掲げる行為をするときは、職務の執行に当たり、当該許可を受けたことを証する文書を提示しなければならない。
5 第一項又は第二項の規定による債務者による子の監護を解くために必要な行為は、債権者が第一項又は第二項に規定する場所に出頭した場合に限り、することができる。
6 執行裁判所は、債権者が第一項又は第二項に規定する場所に出頭することができない場合であっても、その代理人が債権者に代わって当該場所に出頭することが、当該代理人と子との関係、当該代理人の知識及び経験その他の事情に照らして子の利益の保護のために相当と認めるときは、前項の規定にかかわらず、債権者の申立てにより、当該代理人が当該場所に出頭した場合においても、第一項又は第二項の規定による債務者による子の監護を解くために必要な行為をすることができる旨の決定をすることができる。
7 執行裁判所は、いつでも前項の決定を取り消すことができる。
8 執行官は、第六条第一項の規定にかかわらず、子に対して威力を用いることはできない。子以外の者に対して威力を用いることが子の心身に有害な影響を及ぼすおそれがある場合においては、当該子以外の者についても、同様とする。
9 執行官は、第一項又は第二項の規定による債務者による子の監護を解くために必要な行為をするに際し、債権者又はその代理人に対し、必要な指示をすることができる。
(執行裁判所及び執行官の責務)
第百七十六条 執行裁判所及び執行官は、第百七十四条第一項第一号に掲げる方法による子の引渡しの強制執行の手続において子の引渡しを実現するに当たっては、子の年齢及び発達の程度その他の事情を踏まえ、できる限り、当該強制執行が子の心身に有害な影響を及ぼさないように配慮しなければならない。
(意思表示の擬制)
第百七十七条 意思表示をすべきことを債務者に命ずる判決その他の裁判が確定し、又は和解、認諾、調停若しくは労働審判に係る債務名義が成立したときは、債務者は、その確定又は成立の時に意思表示をしたものとみなす。ただし、債務者の意思表示が、債権者の証明すべき事実の到来に係るときは第二十七条第一項の規定により執行文が付与された時に、反対給付との引換え又は債務の履行その他の債務者の証明すべき事実のないことに係るときは次項又は第三項の規定により執行文が付与された時に意思表示をしたものとみなす。
2 債務者の意思表示が反対給付との引換えに係る場合においては、執行文は、債権者が反対給付又はその提供のあったことを証する文書を提出したときに限り、付与することができる。
3 債務者の意思表示が債務者の証明すべき事実のないことに係る場合において、執行文の付与の申立てがあったときは、裁判所書記官は、債務者に対し一定の期間を定めてその事実を証明する文書を提出すべき旨を催告し、債務者がその期間内にその文書を提出しないときに限り、執行文を付与することができる。
第百七十八条及び第百七十九条 削除